橋爪 大三郎氏の講演会「炭素会計が地球を救う」

飯田橋で標記の講演会を聞いてきた。橋爪先生は環境が専門ではなく、社会学の立場から炭素会計を論じている。その点が新鮮で、論点も整理されており理解しやすかった。そして、日本人として世界に何が出来るかを考えろと訴えていた。坂村先生も同じだったが、結局何かを為す人の講演の結論はこのあたりに落ち着くようだ。それはさておき、この講演で理解した炭素会計のミソは下記のようなものだ。
これは公害問題のように科学法則を当てはめ、エネルギーを投入して、力技で解決出来るような単純な科学の問題ではない。だからこそ、現象を数字で置き換えることが出来るものだけ(すなわち炭素の排出量)で、公平に扱う必要がある。公平とは地域的にも、世代間の得失も含めてのことである。だからこそ、地球上の全ての国の参加が必要で、政治的選択に対して論理構成が成立している点が不可欠。
ここが、20世紀のイデオロギーの対立を軸としてきた(二者択一のパワーゲーム的な)課題解決方法とは違うところ。解決を間違えると、そのしっぺ返しは全地球人が受ける。その前提で、リーダーは何をすべきか考え実行していくことが求められているのが「温暖化=炭素会計」の問題である。
炭素の排出抑制を実行する地球システムが構築出来るようになれば、それは温暖化の解決にならずとも、地球の未来を明るくする方法を人類に授けるだろうというのが、多分、先生が最後に言いたかったメッセージと受け取った。
  2008.12.18

Frei OttoのMechtenberg橋

フライ・オットーHPを見ていたら、面白い歩道橋が載っていたので,ここにメモしておく。Pedestrian footbridges at the Landschaftspark Mechtenberg in Gelsenkirchen, Germany 2003と紹介されている。構造は写真の通り、工事現場でよく使われる単管パイプ(この橋のは丸鋼)を組み合わせたような実に質素で合理的な構成でありながら、どこかユーモアというか、計算され尽くされたというか、絶妙のバランス感覚が心地よい。ケンブリッジ(英国)の木橋:数学橋とは部材の組み方が同じである所も興味深い。愛知万博(2005)のデッキに似ているのは偶然か? 詳しいデータはstructurae(id=s0016842)でどうぞ。  2008.11.23

HANDS 土木エンジニアドローイング展

四谷・土木学会で増田淳をはじめとする昭和初期の頃の図面を披露する標記の展覧会を観てきた。
美しくディスプレーされており、土木の新しい風が感じられ、広く一般の市民の方々にこそ見ていただきたいと思った。出来得るならば恒久展示にしていただき、もっと市民が気軽に立ち寄れる様にしたら面白いと思った。加えて、代表的な図面だけでなく、図面の束をめくってみられるように、すなわち、多くの図面によって、事業が成り立っていることも合わせて理解いただけるような構成にするともっと良いだろう。とかいろいろ考えながら、帰途についた。  2008.11.17

 Laurent Ney 講演会「Freedom of form finding」

本郷・東京大学工学部1号館15号講義室でローラン・ネイ氏の講演会を聞いてきた。intuitionを大事にして、そこで得られたイメージをengineeringを駆使して形にするのが、彼のやり方と受け取った。冒頭ではフォース鉄道橋(1889)ケベック橋(1919)を比較して、同じ構造系だが、彼はフォースの形に惹かれる、と言っていた。全く同感で私もこの比較はよく判る。形が生まれる際の背景の違い(産業構造、設計条件など)が形に出ていると思う。マイクシュライヒ氏も言っている、形に文化が宿るということは、設計者のintuitionの質に因るのだということを強く再確認した、刺激的な講演会であった。intuitionは個人の教養レベルに左右されるので、日々これ研鑽あるのみですね。  2008.11.12

安藤忠雄 建築展「挑戦-原点から-」

乃木坂の「ギャラリー間」で標記の展覧会を見てきた。
安藤忠雄展は最近の21/21DesignSightでの展覧会も含めて、これまでに何回も見ているので、目新しさはなかったが、住吉の長屋の原寸模型はよかった。型枠のベニヤもよかったが、ギャラリースペースのガラス壁を外して、屋内から屋外へ伸びる展示方法が建築的にも面白く非常に良かった。さすが、ギャラ間です。
ピノーの美術館プロジェクトが中止になっていたのは知らなかったが、それに変わるベネチアのプロジェクトが紹介されていた。初期の頃の浜野氏、コシノ氏からサントリーの佐治氏、ベネッセの福武氏、ベネトン氏、ピノー氏、と安藤氏は本当に「高等な」友人(パトロン)に好かれる建築家である。強く印象に残った。コンペとパトロン、建築を成長させる2大要素について、これからも考えていきたい。
1984年頃、講演会で関西のスター建築家として紹介されていた安藤氏は、今や世界のスター建築家にまで上り詰めた。住吉の長屋の模型と、ベネチアやメキシコ、アブダビでのプロジェクト紹介が同居する空間で、20数年前の講演会で神戸北野のリンズギャラリーを題材に「レンガの目地の奥行きにこだわり、そこに溜まる埃の重要性を説いていた」安藤氏を思い出していた。  2008.11.08

ARCHI-NEERING DESIGN 2008 展覧会
+ Mike Schlaich 講演会

田町の建築会館で開催されている標記の展覧会へ行ってきた。まずは展示模型の多さに、そして、選ばれている建築物(橋も含む)のセンスに感激した。
...いや、それは言い方がまずい。後にカタログ(何と500円!)を見て知ったのだが、関係者のそうそうたること。
...良くて当たり前だった。だいたい、私はその方々の書籍を見て、勉強してきたのだから。
模型の大半は学生達が作成したそうだ。苦労したと思うが、なんと素晴らしい教育だろう。私は土木出身だが、建築関係者のこうゆう機会創出のエネルギーは見習いたい。
18:00から、中庭(膜屋根の下の半屋外空間)でマイク・シュライヒ氏の講演を聞いた。もっと軽く流すのかと思っていたら、そうではなく中身の濃さに驚いた。ベルリン工科大学でのカーボンを利用した構造実験の話が一番印象に残った。講演後、少しお話をさせていただき、会場を後にした。  2008.10.23

坂村 健氏の講演会「持続可能都市のためのユビキタス」

飯田橋で標記の講演会を聞いてきた。有名人なので本は読んだことがあるが、講演を聞くのは初めてだった。結果は、やはり、何かを為す人はエネルギッシュであることを再確認した。話の内容は、色々なところで読んだり聞いている話が多く、前頭葉が刺激されることは少なかったが、並外れたエネルギーはしっかり受け取らせていただいた。
話の骨子は3つあったが、印象に残ったのは、技術だけで革新を起こすことは難しい、ということだ。生意気にも全く同感させていただく。
面白かったのは、パリのVeribをべた褒めだったこと。ちゃんとJCDecauxの話をされたこと。頭脳や行動力は並外れた方だが、社会動向を感じ取る感覚は我々と同じようだと感じました。
先生が企画・開発・実現したucode技術が世界標準になったのだけれど、それで、色々な方々が向こう側から近づいて来て、自分の世界も変わってきたという話は良かった。グローバルに生きるという意味の一端が感じられた夕暮れであった。ある意味、水面下でうごめいていた日本発の技術が世界に羽ばたく可能性を感じた。  2008.10.23