BOOKS / 関西の公共事業・土木遺産探訪 / 坂下泰幸著
関西における特筆すべき34の土木事業を取り上げて、それらが建設されるに至った社会的な背景や意義を著者の切り口で再構成した、教養書的読み物語りである。史実を追うだけでなく、ところどころに、著者の所見が述べられており、それがとても示唆に富んでいて読んでいて飽きない。
個人的には、「車石」のことを本書を読むまで知らなかったので、この章がもっともアドレナリンが出ました。著者も仰っていますが、「」もし車石が軌道だとすれば、1832年にニューヨークで世界最初の馬車鉄道が営業するより四半世紀早く、我が国に畜力を用いた軌道が存在したことになる」のですから。
関西の土木を見て歩くのに、必読の一冊として、皆様にご紹介する次第です。
PS:車石・車道研究会のHP
2013.12.29
シンガポール(2013 January)印象記_その6
●橋のデザイン(その4)
【Jiak Kim Bridge,Robertson Bridge】シンガポール川にかかる趣向を凝らした歩道橋群。
【Alkaff Bridge,他】
【横断歩道橋の様子】
2013.04.08
シンガポール(2013 January)印象記_その5
●橋のデザイン(その3)
【Alexandra Bridge 】イギリスの Buro Happold とシンガポールの LOOK Architectsの設計。アレクサンドラ通りを跨ぎ、そこから1.6km続くフォレストウォークにつながる橋長80mの歩道橋。
【ForestWalk】シンガポール郊外の林の中を貫く遊歩道。グレーチングの配置の妙に感心。
【Henderson Waves】
2013.04.08
シンガポール(2013 January)印象記_その4
●橋のデザイン(その2)
シンガポールには歩行者を楽しませてくれる歩道橋も多い。ここから、しばらくは歩道橋三昧が続きます。
【Super Tree 遊歩道】マリーナ・ベイ地区にある公園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(Gardens by the Bay)」に、「スーパーツリー」なる垂直緑化タワーが10数本林立するエリアがある。そこの何本かを結ぶ遊歩道がこれ(2012完成)。ま~、やることがド派手です。どっかで見たことあるイメージだと思ったら、高知市内のパチンコ屋さんの広告塔だったりするわけですが、イギリスのバースに事務所を持つGrant Associates の設計。隣にはWilkinson Eyre 設計の植物園もあり、ここ一帯はUK建築のイメージが濃厚。
【Gardens by the Bay内の遊歩道2つ】写真右側のものは、見ての通りの凝った構造で、UKの香りプンプンです。左側のも、細い柱を垂直に立てないところに、流行りとこだわりを感じます。多少は揺れ止めにも効くでしょうしね。
【Tanjong Rhu Suspension Footbridge】(1998完成)スポーツ施設が集積するスタジアム地区とマンション街を結ぶ橋でGeylang Riverを渡ります。視察したのは金曜日の6時頃で、アフター5を楽しんでいるように見えるカヌー集団がわんさかやってきたのが、印象的でした。
2013.04.07
シンガポール(2013 January)印象記_その3
●橋のデザイン(その1)
インフラとしての橋のデザインも、(変な言い方であるが)欧米並みによく出来ていた。おざなりの橋もあるにはあったが、それは少数派であった。そして、最近できたと思われる橋は、どれも見応えがあった。好き嫌いが生じることは承知の上で、思い切ってデザインされたのだと思われる。その結果、場所のアイデンティティを構成する要素として橋は十分に役割を発揮していた。
【Esplanade Bridge】一番、感心したのは、エスペラネード橋だ。事前に調べていた写真では重たい印象だったが、現地で見る印象は、そんなことは小さなことだと思えるぐらいその場所に馴染んでいた。空間の広さ、直近にそびえる摩天楼の壮大さがそうさせたのかもしれないが、全く現地にふさわしい橋に仕上がっていた。橋の上の歩行者空間も歩車道境界に設けられたブーゲンビリアの連続植栽と周辺景観の雄大さによって、歩く苦痛を感じさせないものだった。
【ヘリックス橋】やり過ぎだろうと安易に言ってしまいそうな歩行者専用のヘリックス橋も現物は良かった。要するに、マリーナ・ベイ全体がテーマパークなのだから、この橋のような過剰とも言えるしつらえは「似合う」し、好感をもって迎えられるのだろうけど、それを支えている複雑で繊細な構造と全部材ステンレスの高級感、絶妙なカーブ、といった「もの」としての存在感をちゃんと放っているからだと認識した。万華鏡の中にいるような夜景もすごく、24時間テーマパークとしての役割を演じきっていた。
【ベイフロントアベニュー橋】その特別な歩道橋に並走する車道橋も、、隣接する1980年代から存在する高速道路橋(Benjamin Shears Bridge)に呼応し、逆π字型の橋脚形状を基本に、太字の輪郭を整理した上で、ヘリックス橋の繊細な橋脚の輪郭が角度によって逆π字型になることで、3つ異なる性質の橋の並列状況に秩序を与えていた。
2013.02.11
シンガポール(2013 January)印象記_その2
●シンガポール川沿い
マリーナ・ベイから上流に向かって、植民地時代の由緒ある建築が残る地域から始まり、ボート・キー、クラーク・キー等の川沿いの繁華街を通り、徐々に高級マンション街へと遷移してく。(キーquayとは岸壁)そこを20分毎に運行されている水上バスと、観光船が行き交う。クラーク・キー辺りまでは、時間帯によっては(ゴンドラはいないが)ベニスのグランドキャナルに匹敵する賑わいを見せる。
都市政策としてのポイントは、全て川沿いを歩けることだ。橋の部分は地下道で連絡できるようになっており、連続性が確保されている。階段状の護岸には柵が設けていないため、腰掛けられるという利用勝手が確保され、景観的にも開放的で川が身近に感じられるしつらえになっている。一方、水難事故への備えとして、数は多くないが護岸の要所には救命浮輪が備え付けてあった。
ロバートソン・キー辺りまでは川沿いに飲食店が並んでいて賑わいを有しており、デザインにも真剣に取り組んだ歩道橋に出会うし、ところどころ護岸の肩に傾斜がついて緑化も十分で、気持ちの良い散策路が続く。この辺りは建物も新しいので最近の再開発の成果であろう。
さらに上流に向かうと川沿いの護岸は垂直に切り立ち、川沿いもマンションが主体になる。川沿いの遊歩道はどこまでも連続している。公団系のマンション敷地との境界には柵がないが、民間系と思われる高級マンションには高い塀が連続してあり、防犯意識の違いを見ることが出来る。更に上流に向かっては、今後マンション開発がされるであろう空き地が目立つ場所を通り、MRTのRedhill駅に近づくにつれて高級マンション群が身近に迫ってくる。そして、この辺りでシンガポール川は暗渠に吸い込まれていく。
Redhill駅前ではちょうど新築のマンションが販売中だったが、ファサードは、まさにアムステルダムあたりで生まれた集合住宅の様子を思わせるものであった。(周辺には、どうにも好きになれないグロテスクなデザインもたくさんありましたので、手放しに感心しているわけではありませんので、悪しからず)
さて、川沿いの遊歩道は昼間だけでなく夜間も歩いたのだが、光は暖色系でほぼ統一されており、眩しさもあまりなく、よく制御されている印象であった。そして、歩道橋はどれも凝ったライトアップが施されていて、マリーナ・ベイといった観光目玉だけでなく、市民の生活圏にまで目配りされていることを実感した次第。
2013.02.11
シンガポール(2013 January)印象記_その1
1/25(金)〜1/27(日)にかけて、「Garden City」から「City in a Garden」に都市政策を進化させつつあるシンガポールを駆け足で見て来た。某建築誌に、ニューヨーク、アムステルダム、ベニスがシンガポールに集結、などとも書かれてあったが、摩天楼、斬新な集合住宅を含む建築郡、そしてシンガポール川沿いの賑わいを見ると、それなりに言い得て妙であると納得した。そんな現実の都市を舞台にした「テーマパーク」のようなしつらえに驚嘆の念を感じつつ、見て回った場所とその印象を記しておきます。
●交通インフラ
まず、チャンギ空港の地下鉄(MRT)駅。駅の延長方向に(バランスド)アーチがひと跨ぎして、駅の待合空間を演出。ここだけでなく、最近できた駅はどれも建築的工夫に満ちていて、新たな観光都市を模索し、そこへ疾走する人々の意志のようなものを感じ、その勢いに圧倒された。
切符は全てICチップ埋込みのカード式(スイカのようなもの)で、個別切符もそのカードをデポジット(1S$)で取得して利用するという(改札システムの簡便性を徹底させるという意味での)経済合理性が徹底されていることに感嘆。日本における、磁気カードを含めてありとあらゆるシステムに対応する状況と比べると、その潔さがうらやましい。旅行者としての私は、3日間乗り放題のカードを30S$(うちデポジット分は10S$)で購入。これで、街なかのバスも乗り放題という格安さと便利さを確保。
●マリーナ・ベイ周辺
将来の(飲料水の自前確保という)安全保障を見通して、シンガポール市民の水瓶としても利用することが想定されているマリーナ・ベイとその周辺の都市開発の状況と都市デザインは、あまりにも良く出来ている印象。
水面を前景にして見渡す摩天楼は絶景。それを木製デッキに腰掛けて眺められるのは、世界中でもここだけの景観のように思われる。ここに現在のシンガポールの勢いが凝縮されている感じ。ダニエル・リベスキンドをはじめ世界の一流建築家と、DP+Architectsを代表とするシンガポール国内の建築事務所の協奏曲は大いに成功している。そして、熱帯地域にある観光都市として、夜景への気配りも相当なものである。日本のLPAも相当程度関わっているマスタープランの出来の良さを感じずにはおれない。
かの有名なマーライオンも移築されて、重要な観光スポットであるだけでなく、マリーナ・ベイの景観を見渡す視点場としても完璧に機能している。何もかもが景観的にも綿密に計画されている印象だ。
2013.02.11
2013年が始まりました
2013年が始まりました。皆様、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年の正月、「いよいよ、本当に前例がない状況に突入です。」と書きました。
その時は欧米(先進国)に手本を求められない、という理解に基づいた
前例がないという認識でした。そして、「前例に縛られないフロンティア」に
いるような自由ささえも感じていました。
なんという、「視野の狭い」錯覚だったのでしょう。
しかし、一年を過ぎた今は、何を持って、前例が無いなんて言っていたのか
まだまだ、心の片隅に「前例を求める頼りなさ」が残っていたんだなと、反省しています。
物事の本質は「多様性の荒野」に放り出されたということだったのです。
前例がないということは、「挑戦の上での失敗を人生の中に織り込んでいく」しかないことを
意味しています。いやでも挑戦することを「競争する時代」に突入したんだということだったんです。
といって、20世紀的な「弱肉強食礼賛」的な競争では未来がありません。
このカギカッコに入るにふさわしい新しい言葉はまだ見つかりません。
この一年は、いろいろとチャレンジしつつ、それを探す2013年になりそうです。
本年もどうぞ、よろしくお願い申しあげます。 2013.01.08