BOOK / 近代都市パリの誕生 / 北河 大次郎著

副題にあるとおり、鉄道・メトロ時代の熱狂の渦中にあった19世紀から20世紀初頭のパリを舞台とするメトロ建設物語である。膨大の資料をもとに、その時代の都市建設の様子が描き出されており、土木学生必読の本といっても差し支えないだろう。

都市の構想はどのように立案され、議論され、権力の間で揺らぎ、落ち着くべきところへ落ち着いていくか。この部分も丁寧に書き込まれていて、ゴシップ記事を読むかのような楽しみがある。

パリならではの景観の論争も網羅されているし、蒸気から電気へと移行する鉄道技術の進歩?の影響、当時のフランスにおける歴史遺産保護の潮流などにも筆が及び、読むスピードに情報を脳にインプットするのが追いつかない程だ。

今の日本でも議論されているのと同じようなトレードオフの課題が19世紀から20世紀にかけて、パリにおいても盛んに論じられていたことを知り、そこからいろいろなヒントをいただいた。個人的な見解だが、端的に言うと、これからは今以上に「時間」の概念を吟味してデザインしないといけない、ということになる。時間軸は、過去の方向と未来の方向と両方だ。そんな読後感を味わいつつ、裏表紙を閉じた。

剛性配分の妙?



スペインの設計事務所Anta Ingeniería Civilの桁橋デザインを紹介する。

見ての通り、構造モデル的には、ただの桁構造である。が、桁剛性の配分と桁断面構成にひとひねりを加えて、見た目の印象を改善?している。ミムラム氏のトゥールーズの橋も丁度こんな感じのひねりがあったが、それをこれでもかと言うぐらい、多くの橋で展開しているのが、この事務所。

Shaping Forces (Laurent Ney)講演会



2010.11.09,京都大学桂キャンパスにて、ベルギーの構造デザイナー、ローラン・ネイ氏(Laurent Ney)の講演会を聴いてきた。2008.11.12の東大での講演会以来の2年ぶり2回目の聴講となった。
(写真はネイ氏のHPから、ポスターは京大HPから)また、ブリュッセルでの展覧会のインタビュービデオはこちら

講演会の枕部分は2年前と同じで「intuition」を大事に、というところからの展開。当然ながら、設計態度や主張の展開は同じなれど、紹介される橋は最近の事例が織り交ぜられて新鮮なモノとなっており、楽しめた。

今回は、構造デザインの話よりも、発注者の設計条件やそれをネイ氏がどのように解釈したかの話しに重点が置かれていたいように感じた。まぁ、そうゆう事を含めて形を探っていくのが設計作業そのものであり、楽しみなのであるが、そういった認識が世間に少ないのは欧州も日本も同じなのだろう。ただ、我が国の構想力や技術力が彼らに劣っているとは全く思わないが、文化行事のようなコンペの存在や、そもそもコンペにより設計者を選定するという制度のあり方など設計を取り巻く環境面で、大きく水をあけられてしまっていることを再認識させられた。

このへんの改革も、土木人としてやらねばならない仕事であるな、とおもいながら会場を後にした。

なお、今回の来日には、昨年からLaurent Ney事務所に勤務する若き日本人アーキテクトの渡邉氏が同行し、講演の要約和訳など、ボスの世話を焼いていた。そんな彼が、欧州の日々を綴ったBlogを「おすすめBLOG」に紹介したので、興味ある方はどうぞ。

Kew Garden TreeTop Bridge 2008



ロンドン郊外のKewGardenに設置された地上18mに位置するTreeTopWalkway。一周約200mで、支間約15mのユニットが10基連なる。構造は全面的に耐候性鋼材が用いられている。基礎杭(RC)は既存木の根の位置をレーダー等で探索の上、避けて設置されている。トラス斜材の配置には植物の生長パターンにみられるフィナボッチ数列を援用したとされる。設計チームはロンドンアイを手がけた Marks Barfield with Jane Wernick Associates.

シンプルな造型は、空中散歩に集中する意味でも好感が持てるし、ディテールをしっかり追い込んでいる構造にも敬意を払いたい。個人的にも好きな橋です。

なお、橋の名前にはXSTRATA TreeTopWalkwayと、冠に企業名が付く。世界的な鉱山開発企業で2002年に上場以降積極的な買収攻勢をかけて急成長してきた企業である。PPPが盛んな英国ならではの光景であるが、どの程度の出資をしているのかは、現時点では未調査で不明。

90年代半ばにオーストラリアあたりから見かけるようになった「TreeTopWalkway」という、自然との親しみ方はすでに定着期を迎えつつあるように思う。こうして、私たちはまた、新たな視点場を生活空間の中に取り込んでいく。

水都大阪と淀川 展



大阪城を間近にみる大阪歴史博物館にて、新淀川100年 水都大阪と淀川展(および常設展)を観てきた。
淀川と都市大阪の成立の起源を理解するため、古代の様子も説明されていたため、歴史の全体像がつかめて楽しかった。

近世の様子は、1週間前に見た隅田川展に描かれている状況と同じ。(当然と言えば当然だが)ただ、難波宮や四天王寺の存在など、江戸以前の歴史の厚みが大阪にはあることをしみじみ感じた。多分、歴史的には、江戸の隅田川は大阪の淀川を模倣したのだろう。

隅田川も淀川(現在の大川)も明治に入って放水路(岩淵水門+荒川放水路、毛馬洗堰+新淀川)をもうけて洪水の無い運河のような存在になったところなど、似ている点も多い。そして、現在、より水辺に親しめる水際線デザインの苦労、そこにあった歴史の掘り起こしの工夫など、配慮の仕方も似ている。

都心を流れるという意味で淀川(大川)に有利と思うが、隅田川が川辺にサイクリング道路などを整備してくると、また形勢は変わってくるかも知れない。両方の川はまだまだ変わっていくだろう。そんなことを考えながら会場を後にした。

BOOK / 怯えの時代 / 内山 節著

次第にたちゆかなくなるかも知れないという不安。 
順序は正しく理解せよ。たとえば、消費市場の成立→流通→生産の順に物事は動いてきた。流通が生産を促すのであってその反対ではない。

自然は無限にあるというのが、経済学の仮定だそうだ。そのような杜撰な仮定の上に成り立っている。だから破綻するのは当然の帰結。

喪失の上で成り立っている自由。巨大システムの前で無力な個人。

現代は、資本主義的な市場経済、近代的な市民社会、国民国家、この3つで成立している。勤勉に働くことで幸せになると言う倫理観が支配。ただし、皆が幸せになるわけではなかった結果が出てきた。

矛盾を内在した現代社会。隠したいモノがどんどん顕在化する現代。根本的にあり方を変革する時代に突入していることがこの本では整理されている。

結論的なヒントとして、著者は連帯というキーワードを最後に掲げている。

いろいろと考えさせられる論考が詰まっている。

隅田川展(江戸が愛した風景) / 江戸東京博物館

両国は江戸東京博物館にて、隅田川展を観てきた。橋を堪能した事はもちろん、当時の遊びの風景と絵の中にある雑踏に圧倒されてきた。

いろいろはあるのだろうが、幸せそうな庶民の表情がそこかしこに合ったことを再認識した次第。そして、ここに登場している人々の身元とお仕事に非常に興味がわいた。

それにしても、両国駅から江戸東京博物館に至るエントランスの(どうしようもない)風情はなんとかならないか?

BOOK / まちづくりへのブレークスルー(水辺を市民の手に)
/ GS群団連帯編

市民に開かれた公共事業にしたい、との思いは、市民のみならず行政側にもプロの設計者にも共通の思いがある。しかしながら、現実にはいろいろな制限や慣習等に縛られ、流されて、志半ばで矢折れ力尽きることが多い。

そのような現実にさらされながらも、見事に初志を貫徹した4つの事例をとりあげ、そのキーパーソンが語り合ったシンポジウムの記録がこの本である。語られている内容が実に熱いし、知恵と胆力にあふれている。当事者の方々はそれは大変な苦労だったと思われるが、このような方々が日本全国にまんべんなくいることが、21世紀に向けての国力の源泉なのだと言いたくなるぐらいだ。

編集者の努力もすばらしく、ひとつひとつの標題の付け方に工夫があり、読み手の理解を助けてくれる。シンポジウムの和気藹々とした雰囲気も伝わってくる。まちづくりに関わる人々は必読の書だと思います。

また、本書では随所に「ふつうのデザイン」論が出てきます。気をつけて読んでいないと見落としがちなぐらい、普通に、デザインの本質論が語られています。たとえば、記憶を呼び覚ましてデザインの方向を決める、工夫すると他人が気がつかない状態になる、子供目線を大事にする、などなど。

がしかし、このシンポジウムでも話題になっていた、これらの事業で活躍した人々の次の世代から「人」が出てくるのか、との疑問はここでも「今後の課題」として残されたままです。やっぱり、ここなんですね、現代の課題は。解決策として、(精神の自由を確保するため)一回外に出て旅(修行)をせんといかんのではないかな、と思う今日この頃です。

安寧の都市ユニット開設記念シンポジウム

京都大学にて、「安寧の都市ユニット開設記念シンポジウム」を聴講してきた。安寧の都市ユニットとは、健康医学と都市系工学を融合した学問領域「健康人間都市科学(仮)」の創生を目指すものだそうで、開設記念講演内容は下記の通り。

講演1:「安寧の都市」論の構築に向けて
           〜身体と場所の風景論から〜 
    (中村良夫 東京工業大学名誉教授・前 京都大学教授)
講演2:「安寧の都市」づくりに向けて〜地域医療はどうなるか〜
    (小川道雄 市立貝塚病院総長・元 熊本大学副学長)

講演1は中村先生の「風景講義」。風景を把握する上での身体性、心の動きなどに着目した、風景のとらえ方を熱く語られた、すばらしい講演であった。そろそろ、心からみた風景論を研究しても良いのではとの示唆を与えていた。

講演2は現在瀕死の状態にある医療現場の実態(医師の過重労働)が解説されたあと、立て直すには医療施設の集約しかないという結論(先生の持論)が述べられた。まさに本ユニットに向けた問題提起がなされた講演であった。そして、今現在、土木と健康医学の間には何も接点がないが、このユニットがその接点を見つけ出し、融合していくことが望ましいとの感想が述べられていた。

医療の面から都市を考えるという、誠に現代的なテーマを正面から扱う気概にまず拍手を送りたい。(偉そうですみません)5年の時限付きユニットのようだが、5年後にどのような発信がなされるのか、非常に楽しみである。

この課題、私にとっては「散歩」がキーワードだ。散歩が楽しい街づくり、これが土木から提案できる一番身近な部分と思う。講演2でも大人が今よりも3000歩多く歩くと、医療費は3000億近く縮減できると紹介されていた。(今現在は平均男7千歩/女6千歩ほど歩いているそうだ)

次には、電気自動車を前提とした街づくりではないか? 排気ガスが出ないのだから、救急車や介護車は家のリビングに直につけられるようする、病院側の玄関のあり方も変える、など種々のデザイン展開も考えられる。風景が心を癒すメカニズムや哲学も研究して欲しいテーマだ。

また、医師の労働条件を整備するにあたっては、制度論、政策論の議論が欠かせない。所轄官庁が国土交通省と厚生労働省という、巨大利権官庁の組み合わせである点も留意せねばならないことであろう。

Liberty Bridge at Falls Park, Greenville, USA


2004年に竣工した歩道橋で、アメリカ東海岸の南側にあるサウスカロライナ州にある(map)。
設計者は、アメリカでのここ最近の活躍が目立っている Miguel Rosales氏。
エンジニアリングにはシュライヒ事務所が参加している。

構造は見ての通りシュライヒそのもので、Miguel Rosales氏の事務所は、アーバンデザイン全般を担当したものと推察される。写真で見る限り、適切な計画だと思う。詳しくは(パンフレット)をご覧ください。

Miguel Rosales氏は、1961年、ガテマラ出身で地元の大学を経てMITを卒業し自身の会社を興している。ボストンのBigDigことCentral Artery/Tunnel Projectに参画して、橋梁デザインなどで名を馳せたらしく、このあたりから、橋のデザインの周辺での活躍が目立ち始めている。経歴を見るとアーキテクトとして、primary designに強いようであるが、橋梁基本構想、といった仕事が彼の地では良くあるのかも知れない。(このあたりは現在のところよく知りませんので、話半分でお読みください)

いずれにせよ、彼の仕事全般に言えることは、エンジニアとしてのオリジナリティを追求するのではなく、世界のデザイン潮流を良く理解・把握し、最新の知見に基づく計画やデザインを与えられたサイトに適用するのが上手な事務所のように見えます。コンサルタントとして、そのような事務所も大変有用である訳ですが、アーキテクトと構造デザイナーの役割分担や名誉の配分などでは、なかなか難しい問題をはらんでいるようにも感じました。ただ、そんなこと関係なく互いに信頼して、長所を持ち寄るのがコラボレーションの醍醐味ですので、本人達は何も気にしていないのだろうとも推察されます。なお、この橋はシュライヒのHPでも自身の作品(コンセプチュアルデザインと詳細デザインを担当した記述されています)として紹介されいています。

BOOK / Yanagi Design / (財)柳工業デザイン研究会 編


柳宗理と柳工業デザイン研究会のしごとの全貌をまとめた本です(2008年出版)。これまでに出版された本からも、柳先生ご自身による「デザイン考」など重要な文章と写真も再掲されており、まさに集大成といった趣です。

私事で恐縮ですが、20年ほど前の2年間、仕事の関係で、先生の事務所に頻繁にお邪魔していた時期があり、とても多くのことを学ばさせていただきました。その最も重要なエッセンスが、手を動かし「ものをつくりながら考える」創造活動の基本であり、考え抜いた果てにあるのは、誰がデザインしたか忘れるほどの「ふつう」に到達することでした。

この本でも、その二つのことが繰り返し主張されていて、懐かしく読み返しました。そうは言うものの、チームワークの成果として、「ふつう」に到達するのは非常な困難です。普通に到達するために、最先端の技術にチャレンジしなければならないこともあるし、悪しき前例主義とも、まちがった功名心とも闘わなければなりません。そうゆうわけで何度もくじけながらも、いつか本当の普通に到達したいと今でも念じているわけです。

そうしたことを再確認させてくれた本でした。特に、柳先生の「デザイン考」は全く古くならないデザイン哲学であり、是非とも若い人にこそ読んでいただきたいと願います。

中国で構想されている 道を跨ぐ電気BUS


今年の8月頃のニュースでご存じの方も多いとは思うが、中国の勢いを感じさせる面白い構想なので、改めて紹介しておく。詳しくは(YOU TUBE)をご覧ください。

バスの構造は見ての通り、2車線分の道路を跨ぐ2階建てバス。既存道路の2車線分を拝借してレールを敷設すると完成するので、安上がりでもあるとのこと。1階部分は車道に開放して、バス停においても乗用車の通行を妨げないのがミソ。衝突防止のセンサーなども配置して、走行中も利用可能としている。

不意の事故の際は、歩道側の窓部分が壁ごと開いてその斜面を一気にすべって外へ逃げれる機構が組み込まれているなど、一応本気モードのようです。(窓ガラスが割れて危ないとは今のところ考えていないようにも思えるが)

立体横断施設を利用して、天井からも乗降させる構想もあるようだが、未来に向けてあらゆる既成概念を取っ払った発想は、やはり中国ならではのもの。今は安全のことを考えると現実的ではない気がするが、車の運転が自動になれば、衝突の危険もぐっと減るだろうから、そのような時代にはこのようなバスが当たり前になっているかも知れない。行く末は如何に?

ムンバイのスカイウォーク


めざましい経済発展を遂げる、インドの西海岸に位置する人口1366万都市「ムンバイ」のスカイウォークを紹介する。(map)

この橋は鉄道駅とオフィス街を結ぶもので、長いもので3kmもあるという。駅の周りのスラム街、そして混雑の極みを見せる道路を避けて、通勤者を駅からオフィスへとスムーズに繋げるのが建設目的だそう。(ここここを参照ください。写真もそこから拝借しています。)

こんな橋の用途は初めてだが、障害物を克服する道具という意味で、まさに橋である。良いとか悪いとかではなく現実の解なのですね。いろいろと考えさせられます。

BOOK / 21世紀の国富論 / 原丈二 著


アメリカ式資本主義を批判している本の続きです。
主題は「世界から必要とされる21世紀の日本へ」です。

著者の略歴はネットに任せるとして、いや、本当にすばらしい方がいらっしゃるのだと感嘆しました。新しい産業を生みだし、国の経済に豊かさをもたらす本質的なモノが「新しい技術」に他ならない、これが著者の最大のメッセージであり、そのための哲学、方法論が本書で展開されている。偉そうにも「完全同意」させていただく。

不完全であっても、コンセプトさえ良ければ説得するのは簡単です。...欧米のトップです。本質的でない些細なマイナスであっても解決できるまで待つという保守的な組織です。...日本の企業です。

こんなことが経験に基づき書かれている。
そして、著者自身は、果てしないチャレンジを今も続けている。すごい!

BOOK / これからの「正義」の話をしよう / Michael J. Sandel 著


今、話題の本です。ダウンロードしてipadで読みました。

著者のメッセージは、控えめに、最後に語られている。アジテートするのではなく、問題提起で抑えているところは好感が持てた。だからこそ印象に残ったとも言えるし、付け焼き刃的な不完全さも感じた。要するにどっちつかずなのである。東洋人の我々にはなじみの深い「中庸という言葉で表されている概念」が語られているようにも感じた。

全般に参照されているのは西洋哲学の系譜であり、本書の主題は西洋における正義の定義の悩みということかな?とも感じた。一億総中流社会と揶揄されていた頃の日本が一番幸せだったのかも知れないと思いつつ、これからの「生き方」について考えるのを促される、そんな本でした。

橋の渡り納め式...筑後川にかかる昭和橋で


2010年9月5日の日曜日、昭和4年に建設された昭和橋(うきは市)の撤去工事を前に、渡り納め式が地元有志の手で行われた。(福岡県庁HPより)

愛されてきたのですね、この橋は。.
一方、その隣に架けられたどことなく表情の乏しい新橋は、その寿命を終える時に同じようにいたわってもらえるだろうか? それが今から少し心配でもある....

鍵は「言語と通貨」by 松岡正剛


奈良新公会堂にて、平城遷都1300年記念経済フォーラム「東の国の経済と文化 日本と東アジアの未来を考える」講演会を聞いてきた。

2002年から事業仕分けを自治体に展開してきた構想日本の加藤氏、慶応大学漢方医学センター長の渡辺氏、グーグル日本の名誉会長村上氏とおもしろそうな講演者に加え、松岡正剛氏が企画しているので楽しみにしていたが、議論の中身は新鮮みに欠けていて残念。テーマがおおざっぱすぎたせいかもしれない。

ただ、松岡氏が最後にまとめた言葉は印象に残った。アメリカ発の民間会社がソフトインフラを整備したインターネットが現代社会に根を下ろしたが、英語とドルだけの世界は勘弁願いたい。これまでもそうであったように文化は「言語と通貨」に規定されるわけだが、ネットの世界を一つの言語で覆うのはご免被りたい。日本にも世界に冠たる種々のモノが眠っており、これらを世界に発信していかねばならない。アメリカ文明に押されっぱなしの今の状況を変えていきたいものだ。

断片的には面白い話しもあった。預金を(民間会社)に預けることとデータを(google)に預ける、これのアナロジー。そのネットに電子マネー(クレジット)という無形物が入って国境を簡単に越えるという連鎖。戦争が絶えない一方、信用をベースにコミュニケーションを増殖させる現代社会。言語と通貨は文化と文明の交換メディアとして、これからも社会制度のキーファクターであるとの示唆は深く印象に残った。

壇上でも議論されていたが、一体いつの時点で日本はアメリカ文明にこうも影響(蹂躙)される立場になってしまったのだろうか?そしてその一方、漫画やウォシュレットに代表される生活文化においては、オリジナリティー満載で世界に発信出来ているのにね。

BOOK / 土地法口話 by 篠塚昭次


建築自由の原則、都市計画法の起源(設立の経緯)などを調べている時に出くわした本(1998初版)で、著者は土地法を専門とする早稲田大学法学部教授(当時)です。amazonでは品切れになっていますが、読みやすくて,この方面の知識をさらっと頭に入れるのには重宝な読み物として推薦します。

参考までに、章立てをおさらいしておきますと、土地法の体系、土地法と経済、都市計画法、建築基準法、土地区画整理法、都市再開発法、土地収用法、震災復興法、となっています。

節の題目を拾うと、土地問題と哲学・科学、国土総合開発法・1950「立ち上がれ!頑張ろう!」、都市計画法・1968「ちょっと待て、環境も考えよう1」、土地基本法・1989「反省しよう!」、コルルビジェの影響、市民エゴ?、欲と二人連れの再開発?、景観・風景、などなど、読者の興味を惹いて読ませます。

Henry Moore 展 / ブリジストン美術館


ブリジストン美術館で、ヘンリームーア展(生命のかたち)を見てきた。なんか惹かれるんですよね。抽象なんだけど、ほのぼのとした暖かみと理知的な雰囲気が...
哲学する気分を文字でなく形で表現したようなイメージを、勝手に受け取っています。

余部鉄橋、100年間お疲れ様でした。


着工は明治42年(1909)12月。100年を経て老朽化と社会状況の変化には勝てず、今年8月12日に世代交代をする。Mizen Head Bridge(下記)のようにレプリカとして形態保存される橋もあれば、架け替えられる橋もあり、悲喜こもごもである。(上記写真は知人からいただいた数年前にヘリから撮影したもの)

この橋の歴史的経緯についてはここを参照ください


Mizen Head Bridge(1910)の建替え / Ireland


アイルランド南西端にあるMizen岬灯台への連絡路として1910年に開通した橋(支間52m)が、100年を経て老朽化が限界にきたため、そのままの形で建替えられる事となった
現在は観光地としても人気のスポットとなっているようで、コンクリート黎明期の橋への敬意が十分に払われたという事だと思う。鉄筋にはステンレスが採用され、これからの150年間に耐えられるよう設計されるそうだ。

1910年にこれだけの鉄筋コンクリート橋がこのような辺境の地に出来ていたとは驚きだ。しかし、よく考えてみると、その当時、舟運が国家にとっても重要交通路であり、その安全を司る灯台建設において技術的にも先端を走る建設技術者がいた事は想像に難くない。そう、灯台も鉄筋コンクリートで作るに適した構造物でもあり、電気設備的にも難しい部類のものだったであろうから。
★蛇足ながら、コンクリートの歴史のおさらいはここを参照下さい。

Castleford bridge / UK, West Yorkshire


2008年7月の開通以来、2009 RIBA CABE(Commission for Architecture and the Built Environment) Public Space Award,他多くの賞に輝いたCastleford Bay Bridgeを紹介する。

設計はMcdowell + Bendettiで、2003年のコンペに勝ち抜いたもの
橋長は131m、最大支間26m、V字型橋脚支間9m、S字を描く二つの鋼箱桁寸法は500×400で、内一つは支間中央で1000mmの桁高に斬増しベンチの役割も果たすように工夫されている。桁高を極力低くくしたのは100年に一度の洪水にも堪えられるようにとのこと。デッキはクマルと呼ばれるブラジル産の超硬質木材が利用されている。(日本で名の知れている、ボンゴシやイペ材のようなもの)

街おこしのための橋のようであるが、堰の下流側の白濁した水流の中に白い橋脚を建て、そこから街の産業遺産であるmill(水車式製粉工場?)などがダイナミックに眺められる公共空間を見事に提供している橋であり、非常に好感が持てる。街の人々にも大いに愛されることだろう。

一方、我が国の場合、河川構造令の制限からほぼ無条件に小判型の橋脚がハイウォーターまで立ち上がってくるので、このような形態は望むべくも無いところが、何とも歯がゆい感じがする。英国の河川構造令を調べてみたいところだ。

Te Rewa Rewa bridge / New Zealand


2010年6月5日、ニュージーランドの北島、西海岸に位置する人口5万弱の街 NewPlymouth に新しい歩道橋が開通した。なかなかに興味深い橋なので、以下にHappyPontist 等からの情報をいくつかピックアップします。(上記写真もそこから拝借)

支間長は69m、設計は NZの首都ウェリントンにあるNovareDesign。架設は、近くのヤードでアバット部分以外を完成させ、両端のアバット部分を台車にのせて、現場までゴルフ場の横切って運搬。渡河すべき川にも台車ごと入って行き、ある程度のところでクレーン相吊りで引き上げてそれぞれの橋台に載せている。サンダーバードに出てくるような架設手順(YouTube)も面白い。

橋は海岸沿いの遊歩道を結ぶもので、これで、プリマスの住人の行動半径が飛躍的に広がる模様だ。富士山のような独立峰であるタラナキ山とのマッチングも楽しい。

(ニュージーランド:1000年以上前にポリネシアから移民してきたマオリとその後、入植してきたパケハ(ヨーロッパ人)、そして太平洋諸国やアジアからの移住者たちの影響を受け、ユニークでダイナミックな文化が形成されている、世界でも若い国のひとつ。)

Volgograd Bridge ..... 繰り返された失敗


2010年5月、ロシアの母なる川:ボルガ川を跨ぐ連続箱桁橋(2009年10月開通)が、30分に渡って風で振動(YouTube)し、一時的に閉鎖された。振幅は1mほどもあったという。その後の調査で構造的には問題なしということで、現在はまた供用が開始されたようである。(代替ルートは数十キロも離れた橋、あるいはフェリーとなるようで苦渋の決断だったのだろうと推察される。)監視は続けられ、同様の振動が発生した際は通行止めになる。抜本的解決のためには、風洞実験を実施し、整流版の設置あるいは構造補強が追加されるだろうと思われる。

1940年に起こった、かの有名なタコマ橋の落橋以来、桁構造の自励振動現象はほぼ解明されており、今頃、こんな失敗が起きるとは、ロシアの橋梁設計技術(情報)は遅れているのか?と思わざるを得ない。

と同時に我々の身の回りにおいて油断が無いか? 再点検しておこうとも思った次第。


ダレス国際空港 by Eero Saarinen with Ammann & Whitney


J.F.ケネディが大統領だった1962年、アメリカの威信をかけて開港したワシントンダレス空港を紹介する。設計はエーロ・サーリネンアンマン&ホイットニー、他の混成チーム。

吊り屋根構造のメインターミナルの美しさに目がいきがちであるが、ジェット機が大衆化する時代の空港利用のあり方について、よく考えられたところに本設計の本質があり、そのしっかりしたコンセプトの上ににシンボリックなターミナルビルが存在していることをまずは認識したい。

たとえば、ビルは2階建てになっており、それぞれにアプローチ道路が取り付いており、出発と到着の動線整理を明確にしている。そして、このメインターミナルでは搭乗手続きが行われるだけで、待ち合いスペースは別途に用意して、機能の単純化、明確化を確保するとともに、優雅なターミナル建築の実現を助けている。

そのコンセプトの延長上に「モービルラウンジ」=動く待合室という機械的発明があった。
これはターミナルビルに接続して乗客を乗せたゴンドラ部分が持ち上がって、旅客機に直接搭乗できる大型バスであったが、昇降時間が以外にかかったりとか、出発時間に遅れてきた人のために大勢の方が辛抱を強いられるといった部分で好評とは行かなかった。結果、ターミナルビルとは別途に用意した駐機場との連絡バスとして利用されるに留まってしまうことに。

一方、時代とともに拡大していった発着枠への対応は、別途に用意した駐機場(コンコースと呼ばれている)を増殖させることで対応出来たことは、シンボリックなメインターミナルを陳腐化させなかった功績とともに何か示唆を含んでいると思う。

利用客の増大はメインターミナルビルの拡張も促し、(当初設計から想定はされたとおり)建設当初のデザインのまま、1996年、左右に拡張(延長)される。そして、増殖したコンコースをつなぐアエロトレインと呼ばれる日本製の交通システムが導入され、2010年春から供用が開始されている。

その他、滑走の拡張や新しい管制塔の追加など、開港から50年を経てなお、空港の顔となるメインターミナルの姿はそのままに、空港機能の革新を進めている点こそ、本空港から学び取るべきことだろうと思う。

Volkswagen の電動バイク bik.e



北京のモーターショーで発表されたVWの電動バイクのコンセプトモデル。最高時速=20km、最長航続距離=20km、 AC電源のほか、自動車のDC電源からも充電できるとのこと。(YouTube)

折り畳んでトランクのスペアタイヤスペースに収納できる点が魅力的ですね。軽やかなイメージは自転車の様でもあり、バッテリーの性能があがれば、街乗りのビークルとして多いに可能性を感じさせてくれます。チェーンが無い分、(油まみれにならないので)自転車よりも扱いやすそうでもあります。

似たコンセプトに YikeBike というのもありました。(YouTube) 駆動系がモーターになることで、コンパクト化とインテリジェント化が進み、いろいろと面白い乗り物が出てきて、わくわくします。インフラとしての道路のあり方も、未来に向けて研究の余地がまだまだありそうです。

都市内道路横断歩道橋 コンペ結果、Lisbon



ポルトガルの首都リスボンの環状2号線を跨ぐ歩行者自転車用橋のコンペが、2009年秋に実施(コンペHP)された。

応募要項に、The projects submitted have to reflect energy efficient solutions and have to be sustainable both at the levels of execution, maintenance and environmental solutions. The use of autonomous means of producing energy and innovative use of materials will be valued, as well as its urban integration and the surrounding landscape. とあり、下記に示す評価規準が設けられ、斬新な案が求められた。

EVALUATION CRITERIA AND WEIGHTING (評価規準と重み付け)

Urban Integration :30%
Quality of Architectual Work :20%
Feasibility/Cost Effectiveness :20%
Sustainability :15%
Conceptual Approach :15%

結果は下記の通りで、日本の横断歩道橋のようなものが優勝、続いてS字の橋、アーチ橋と続いた。
優勝:Telmo Cruz + Maximina Almeida + António Adão da Fonseca (PT)
2等:Moxon Architects Limited (GB)
3等:Impromptu Arquitectos + Selahattin Tuysuz Architecture (PT)

Four Mile Run Bridge コンペ結果、Virginia、USA



Four Mile Run とは川の名前で終端はポトマック川に注がれる。川沿いには遊歩道が整備されており、それらを相互に結びつける歩行者自転車用橋のコンペが、2009年秋から2010年春にかけて実施(コンペHP)された。

応募資格には、Teams of professionals including Architects, Landscape Architects, and Structural Engineers. とあり、建築、造園、構造の連合チームが要請されており、少なくとも60mから120m支間の橋が求められた。

結果は下記の通りで、上路式吊床版構造とでもいえるものが優勝、続いて曲線吊橋、曲線アーチ橋と続いた。
優勝:Arup / Grimshaw / Scape
2等:Olin / Buro Happold / Explorations Architecture / L’Observatoire International
3等:Rosales + Partners / Schlaich Bergermann and Partner / Simpson Gumpertz and Heger

上空が送電鉄塔で支配されているので、景観的には桁形式が良いと思うので、妥当な案が選定されたと思う。ただの桁構造だとつまらないので、あれこれ工夫をこらした案が選ばれたのだろうが、既視感のある構造デザインではある。床版とそれを補剛する構造の組み合わせは、ロンドンミレニアムブリッジ以来、アラップのパターンになっているようだ。

Knokke Footbridge、Knokke-Heist、Belgium


観光地としても有名なブルージュから15kmほど離れた、北海に面した海辺のリゾート地クノック・ヘイスト(ベルギー)に2007年完成した歩道橋(地図)

形式は中央支間46m(側径間28m)の3径間連続梁で、12mmの鋼板をハンモックのように扱う部材構成が特徴。曲げ、せん断に対して最適配置となる形状をシミュレーションした結果として、彫刻的な外観と、遊び心で満たされた内観を同時に実現している。下に示したリバプールの事例とは趣を異にし、柔らかで軽やかなイメージを獲得しており、これも鋼板をどのように構造デザインに生かすかの参考例として頭に入れておきたい事例である。
さすが、Ney & Partners  なお、本BLOG/2008年版の2008.11.12にNey氏の講演会(at 東大)の様子をアップしているので、興味のある方はどうぞご覧ください。

Paradise Street Footbridge、Liverpool


リバプールの再開発地区に2007年完成した歩道橋。

形式は支間60mの鋼製箱桁のようなもので、その部材構成に、構造合理性を確保しながらも、ひとひねりもふたひねりも建築的工夫が施されているのが特徴。結果、彫刻的な外観と、十分な遊び心で満たされた内観を同時に実現している。鋼板をどのように構造デザインに生かすかの参考例として頭に入れておきたい事例

さすが、Wilkinson Eyre Architects

Larvik市 bridge design コンペの勝者決定


ノルウェーのLarvikで検討されていた高速道路の線形改良に伴うデザインコンペの結果が出たとのこと( from Happy Pontist )

優勝案は、最終比較3案の中では最も目立たない斜張橋案。3案から選べといわれれば、私もこの案を選ぶが、タワーを傾ける必要は無い場所と思う。すくっと立ち上がるスレンダーなタワーの方がこの場所にはあっているように感じる。いずれにせよ、妥当な案が選ばれている。

なお、この道路改良はおそらく、欧州高速道路としての基準を守るための改良事業と思われるが、種々の地形改変に伴うランドスケープデザインのコンペも同時に実施されている。結果公表のドキュメントもしっかりしており、いろいろと勉強になる事例である。

Maribor市 footbridge design コンペの勝者決定


北にオーストリア、西にイタリア、南にクロアチア、と接するスロベニア共和国の第2の都市Maribor市で開催されていた歩道橋コンペの結果が出たとのこと(from HappyPontist)

優勝案は、レムコールハース設計のロッテルダム美術館の遊歩道の構造にヒントを得たような、細い斜め柱を脚に用いた連続ばり構造。背景となる古いアーチ橋のイメージを邪魔しない点が好まれたのだろう。無難な選択だと思う。

準優勝案は川を一またぎする複合ラーメン橋で、これもまた正統派の提案だと思う。多分、河岸部でのコンクリート橋台のボリューム感や山なりの縦断勾配が、背景となる古い橋との相性の点で減点要素となったのではないだろうか? 

いずれにせよ、準優勝は自国の会社ながら、優勝者がスペインの会社であり、ヨーロッパの国境は確実に薄くなりつつあるのだなと、別の意味での感慨も禁じ得ない。

駐輪場の新しい風



江戸川区役所とJFEエンジニアリング株式会社が開発したハイテク駐輪場が面白い。2008年度土木学会技術賞も受賞したこの装置、技術的に良くできているだけでなく、運用システムも利用者にとっても大変便利にできている。その結果、そもそも開発の動機となっていた駅前の不法駐輪を一掃したという実績もついて、近頃、いろいろなメディアで紹介されており、ご存知の方も多いと思う。

詳しくは、YOU TUBE(葛西駅)YOU TUBE(平井駅)HP(1)HP(2)をご覧ください。

外国からも好奇の目で見られて、いろいろな意味でJAPAN面目躍如というところだが、海外でもこんなもの(ドイツ)や、こんなもの(オランダ)や、こんなもの(スイス)があり、限られたスペースに多くの自転車を止めたいというニーズはそれなりにあるようだ。

また、シカゴではシャワールームを備えた駐輪場が都心にできて好評を博している模様。自転車通勤ステーション兼レクレーション基地になっているようで、東京でもこんなのがあれば、相当人気が出そうである。アメリカの自転車通勤の様子を伝えるフィルムを見ると、都心の気の利いた駐輪場と郊外へ伸びる快適な自転車道が整備されれば、日本でも自転車通勤が当たり前になる気がしてくる。
 2010.03.27

Do you know ? 「建築自由の原則」

「建築自由の原則」をご存知だろうか。土地所有権のなかに組み込まれている一種の権利のようなもので、所有者はその土地に何を建てても良い、を原則とする考え方である。そうはいうものの、それでは秩序が保てないので、建築基準法や都市計画法などの法律で土地利用に制限をかけているのだが、原則が自由であるので、行政として違反に対して強く取り締まれない。そうゆう実情の背景にこの原則は重く横たわっている。

法律学者の間では、土地というものは公共性の強いもので、個人が恣意的に土地利用をできるものではない、というのが通説になっているそうだ。にもかかわらず、上記のような原則で日本の土地が運用?されているのは、戦後の復興期に、土地を資本として考える経済学的アプローチの方が国益に合致していると判断したからのようである。そして、まさにそのおかげもあって高度経済成長を成し遂げてきた。

理系の私から見ると、法律学も経済学も同じ文系科目と思っていたが、法律学は哲学的で、経済学は科学的という見方があるそうだ。(話はずれるが、なるほど、バブルとその崩壊に見られる経済の暴走の背景にも科学を運用する人間の稚拙さがあったのか、と思う。「科学を運用する人間の稚拙さ」は20世紀が後世に残した大きな宿題だと再認識。)

さて、欧州各国では「建築自由の原則」などという考え方は、すでに無いそうである。権利で整理するなら、所有権でなく利用権の概念で整理されているそうである。土地所有者の性善説を信じるに足らない現況では、そちらの方が良いような気もする。
土地に関係する法律は、最近の景観法に至るまで、「所有権」とは何かという原則論に踏み込まないと解決できない時代になったのだと気がついた今日この頃です。 2010.03.27

St. Patrick’s bridge design コンペの勝者決定


3.22、カルガリー市で開催されていた歩道橋コンペの勝者が RFR (Paris, France) and Halsall Associates Limited (Calgary) に決定したようだ。(コンペ概要は2.11付けのblog参照下さい)

無難、かつ妥当なところに落ち着いた、というのが私の感想である。
 2010.03.24

民間企業が提供する バスサービス「丸の内シャトル」から考える

NPO法人「大丸有エリアマネジメント協会」や、その母体となる「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」等により、通称「大丸有」地区では、自転車からバスに至るまで、いろいろな公共交通の試みが実施されている。

丸の内シャトル」はその一つで、地区内の企業協賛により無料で運用されている。車両も環境に配慮したマイクロガスタービンによって発電された電気で走る「EVバス」が使われている。廃熱をどう利用しているのか気になるところであるが、2000頃に盛んに議論されていた燃料電池やマイクロガスタービン発電の利用がすでに実用段階にあることを実感する事例である。

発電、充電、廃熱利用、これらのキーワードを考える上でも参考になる事例である。 2010.03.07

そろそろ本格化? リチウムイオン電池で走る公共交通

リチウムイオン電池で走る公共交通の話題がいろいろ出始めている。
たとえば、経産省「低炭素社会実証モデル事業」として、北陸電力が富山地方鉄道などと開発を進めてきた電気バスの試験導入が富山市内で始まっている。定員28人、急速充電できるリチウムイオン電池を4台搭載し、フル充電で68km走行、最高速度は84km/h。

また、三菱重工は路線バス用の電池生産への投資を活発化している。電池価格の低下が始まれば、現在のディーゼルバスに比べても運行費の縮減が見込まれる上に、大気汚染もクリアできる。発進・加速時のショックがなく、静かで、乗客サービルの面でも有利となる。加えて、路線バスは、運行距離が計算でき、急速充電技術の進化もあいまって、電気自動車としての運用にも向いている。そんなところが背景である。

フィレンツェなど欧州では架線を張らない景観的なメリットやインフラ整備費の縮減が見込まれるなどの理由からバッテリ搭載型LRTの採用が検討されている事例もある。また、福井でもバッテリー搭載型のLRTが実験されているなど、日本でも話題が出始めている。
いよいよ、リチウムイオン電池で走る公共交通時代の幕開けが始まったようである。 2010.03.03

Element by Cecil Balmond 展

東京オペラシティ(初台)にて「エレメント」構造デザイナー セシル・バルモンドの世界 展覧会を見てきた。
彼はスリランカに生まれ、アフリカ、ヨーロッパで科学、数学、建築を学び、世界的な構造設計事務所アラップの構造デザイナーとして、レム・コールハース、伊東豊雄、坂茂といった個性的な建築家にエンジニアリングを提供することで、興味深い建築を成立させてきた注目の人である。

この展覧会の目玉は写真に示すH_edge なる構造である。鎖にH型のアルミ版によってテンションを入れることで”ひとひねり”した立方体が自立し連続・浮遊する様は、照明の妙も手伝って宗教建築のような美しさを放っていた。

しかし、それ以外のものは、ものとして職人的な技が感じられず、かつ難解・観念的で、正直、私の理解を超えていた。何でも数学や幾何学に置き換えることのできる彼の感性は、建築家のアナログ的な発想があって、初めて対立・対話がおこり、その発熱エネルギーによって建築が進化したのだろうとは容易に想像できた。が、出来上がった建築に永久の命は感じず、時代を切り取る断片としての「瞬間」を閉じ込めるような、蜃気楼のような儚さも感じた。 

浜野安宏氏の講演会 「生活地へ -幸せのまちづくり-」

飯田橋で標記の講演会を聞いてきた。浜野氏は1941年京都生まれで現在68歳。だいぶお年を取られたようだが、若い頃すなわち1960年代から、我々のライフスタイルに大きな影響を与え続けてきた、遊びと仕事の達人である。

例えば、東急ハンズという業態をゼロから誕生させたり、バリ島において「BALI must not become another HAWAII」とのコンセプトで世銀のプロポに勝ち残り、ヤシの木より高い建築を作らせない法律をつくり、独自の文化を維持しながらも繁栄を続ける(すなわちサスティナブルな)リゾート開発の礎を築くような仕事を積み重ねている。(ここここを見てみてください)

すっかり定着した「生活者」という言葉も最初は彼の造語であった。そして、その言葉の定着とともに、「生活を楽しむ人々」がそこかしこに生まれてきた。
今回の講演のテーマでもある、住宅地でも商業地でもない、遊びや仕事、歴史や文化、環境、いろいろなものが混ざり合った場所を指す「生活地」という言葉も浜野氏の造語で、そのような場所を創造していくという仕事に、ここ20年ぐらいは注力しているそうだ。

「生活地」とは、生活を楽しむ人々が、場所の持つ魅力でもって持続的に再生産される場所をイメージしていると、私は理解している。いろいろなものが街に開いているような場所であり、その装置としてのストリートや界隈のあり方が重要なポイント。そこに、私は土木と建築の本当の共同の「土俵」があると理解している。

「共育」という言葉も印象に残った。教育ではなく共育という視点はすんなり心にしみ込んできた。大人になればなるほど、それは実感ができるのではないだろうか?限界集落というものがあるように限界都市というものもあるとの指摘は刺激的だった。

これからの地方まちづくりの手法として、工場を誘致するのでなく、影響力のある人間を誘致する視点を持てというエールも興味深かった。その人間には、チームやら企業が引っ付いてくるので、経済効果を期待する点では同じことなのだろうと思うが、深みが違う。工場にはお金しかついてこないが、人には文化がついてくるからだ。一方、誘致する側にも覚悟が必要である。そこに住みたいという魅力が土地になければこの話は進まないからだ。お金勘定で事を進めるのでなく、ハートが大事ということであり、時間もかけろということだろう。

世界規模の投資ファンドへの怒り、得意でないところまでやってしまって失敗する建築家への警鐘、などの話も盛りだくさんで、私にとって知的興奮に満ちた2時間であった。

BOOK: PIER LUIGI NERVI PROCESS Architecture N0.23

ピエール・ルイジ・ネルヴィは1891年イタリア生まれの偉大な構造家である。本書は1981年にプロセスアーキテクチャー第23号として発行された彼の作品集であり、その前年に開催されたネルヴィ没後一周年を記念した展覧会とシンポジウムを契機として編集されたものだ、そうである。

巻頭に特集されているネルヴィの言葉から拾ってみる。【時代とともに、大規模公共建築、飛行場、鉄道駅、工場等、RC造でつくられるべき建物がかつてないほど増えてきました。この新しい材料と新しいテーマの出現によって、建築そのものが新しく生まれ変わらざるを得なくなってきました。こういった建築では安定性、施工性が重要なテーマであり、計画当初からそれらについて研究する必要が出てくるわけです。この意味で建築家と技術者と施工者との共同作業が絶対的に必要になり、それは三者が一体的に仕事をした、あのゴシック時代に立ち返る必要性を意味するものでしょう。ゴシック時代は建設技術が最も高らかに歌い上げられ、それが表現された時代でした。】とある。

5、60年前ぐらいの発言と思われるこのことは建設の本質をついていると思うが、最近の日本の土木界は、逆の方向にバイアスがかかっているのが気になるところである。

BOOK: トロハの構造デザイン 川口 衛 監修・解説

エドゥアルド・トロハは1899年スペイン生まれの偉大な構造家である。本書は1958年、トロハ自身が英語で著した本の訳本(2002年出版)であり、彼の「設計思想とその背景」を川口衛先生が解説したものである。

2000年、絶版になっていた本書を再出版する際、スペインの公共事業大臣が書いた序文の一節に【建設分野の活動において、美的価値観への配慮が深く探求されつつある今日、トロハの作品は工学作品の真の価値に関して、明確な視点を与えるものである。】とある。

川口先生の解説に【トロハは、現代の設計者が果たすべき課題は、「機能を十分に果たし」、「形が魅力的な」構造物を、「できるだけ経済的に」創り出すことである、と述べている。】とある。

トロハが活躍した同時代の構造家には、マイヤール、フレシネー、そして彼とよく比較されるネルヴィがいる。代表的な橋は写真DL先HP)といったところである。
構造物の美を考える学生には必読の書だと思う。

著名歩道橋のコスト

カルガリー市(カナダ)に計画中のカラトラバ設計の歩道橋のコストについて、いろいろと議論が起きているみたいだ。建設当局は右表を出して、世界の著名歩道橋に比べても決して高くないと主張している。

1カナダドルを100円と設定(最近のレートは85円前後)すると、この表の数字はそのまま億円、"0"万円m2と置き換えられよう。すると、ゲイツヘッドで540万円/m2(2002)、ロンドンミレニアムブリッジで340万円/m2(2000)、問題となっている橋で304万円/m2(2008)となる。

個人的な経験でしかないが、日本における歩道橋の価格は高いところで100万円/m2といったところだから、やはり高い橋であることには間違いないと思う。

ちなみに各橋のイメージは、Reddinng(Sundial Bridge)=、Esplanade Riel=である。

TENSAIRITY® by Dr. Mauro Pedretti

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TENSARITY=Tension + Air + Integrity とは、空気膜構造と引張材(場合により圧縮材)を組み合わせて、長支間軽量構造を開発している AirLight 社の登録商標である。原理そのものに、目新しさはないが、事業として展開しているところが、「なんか夢があるな」と共感できるところである。
大きな屋根、歩道橋や仮設橋などに応用が利くとして広報しており、フランスのスキー場での適用例がある。また、ETHZでの空気膜をウェブに見立てる実験などの写真がネットからも拾える。楽実験でうらやましい限りである。
なお、類似の構造として、日本では、世界初のチューブ型空気膜構造でもある1970年の日本万国博覧会での富士パビリオンが著名である。

new San Francisco - Oakland Bay Bridge on Google Earth


Googleとカリフォルニア州運輸局が、建設中の新Bay Bridge(2013年に完成予定)を「Google Earth」に組み込む提携を発表した、そうだ。
この新ベイブリッジの広報HPも一見の価値がある。いろいろな情報を積極的に流しており、その延長上にとの提携となったのだろうことが感じられる。
CGシミュレーションはこちら

St.Patrick’s Island(Calgary)歩道橋コンペ 【Shortlist】



これらの画像は、カナダ・カルガリー市のSt.Patrick’s Island 歩道橋のコンペにおいてエントリーされた33案から、選ばれた最終3案をHPからDLしたものである(map)。 

最終3案は、#1)曲線3叉路型の斜張橋、#2)Douglas川のと同じようなストレスリボン(吊り床版)橋、#3)3連のアーチ橋、といった具合に、いろいろな要素がバッティングしないように選ばれている。どの案になっても、それなりの納得が得られるであろう3案が選ばれたと言える。

個人的には、#2が好みだが、#3も悪くはない。#1は避けたいところだ。この2月25日に公開が予定されている、とのことで、結果が分かれば、また紹介したい。

American Tobacco Trail 整備計画に伴う歩道橋デザイン検討
(2008.11 デザイン方針決定、2009.12最終案確定、2011建設完了予定)



これらの画像は、アメリカノースカロライナ州ダーラムに計画(map)されている American Tobacco Trail 整備計画に伴う歩道橋コンペ結果HP等からDLしたものである。
橋のデザインについては、市民を巻き込んで議論されたようであるが、最終的には上図右に示す2案に絞られ、公共サイドから維持管理面など総合的に判断して、アーチ案が選択された、とのこと。(斜張橋はケーブルの維持管理が大変との説明がなされていた。)
いずれの2案も「off-the-shelf bridges」でなく、「custom-design」であることで市民の納得感は確保されていた模様。

最終的には上図左に見るようにアーチリブがRCからメタルパイプ(アーチ支間は約74m)に変更されて、いよいよ建設が始まるようだ。高速道路を跨ぐ工事の観点から見れば至極妥当な変更だろう。なお、詳しいことはわからないが、計画段階で、橋のデザインを得意としている「Steven Grover & Associates」とコンサルタント「Parsons Brinkerhoff」との共同体制、詳細設計は「Parsons Brinkerhoff」一社が担当しているようだ。

鉄道廃線跡 遊歩道整備計画に伴う 歩道橋コンペ (2008.10 結果発表済)



これらの画像は、イングランド北西部のランカシャー州を流れるDouglas川を跨ぐ位置(map)に計画された、廃線跡を遊歩道にする計画の一部をなす歩道橋コンペ結果HPからDLしたものである。
国際コンペとしてエントリーは110を数えたようであるが、最終選考に残った7案から選ばれたのは、かの有名なアラップ事務所とJDA建築事務所 のJV、とのこと。

シルエットはシンプルながら、スレンダーな外観を獲得するための構造はさすがに凝っていて、自定式吊り床版を中央の鋼製ラーメンで支えて、上下方向の力を相殺させつつ、多少なりとも吊り床版からの水平力を均衡させる伝達材としても用いている。と解釈した。

吊り床版を巧みに用いたS.Calatravaのシュテデルホーフェン駅歩道橋にヒントを得たに違いない、と勝手に連想している。

ダブリン郊外のLRT橋梁コンペ (2009.02結果発表済)


この画像は、アイルランドの首都ダブリンの郊外を環状に走るLRT(MetroWest)がLiffey Valley(map)を跨ぐ橋梁コンペ結果HPからDLしたものである。フォスターなどの強敵をかわして勝利したのは、イギリスに本拠を置くコンサルタントBuro Happold とパリに本拠を置く前衛的でサスティナブルな建築に挑戦しているExplorations Architecture のJV、とのこと。

風光明媚な場所を生かすため歩道の設置が条件になっていたようであるが、最後に残った5橋を見比べると、この橋が一番エレガントで渡りたくなる要素に勝っていた。テムズ川ミレニアムブリッジの構造構成にヒントをもらったとも思われるこの橋に負けたフォスター(アーチ案)の胸中はいかに?いずれにせよ力作ぞろいのコンペで主催者(鉄道事業者)は大喜びのようだ。

、Buro Happold and Explorations Architectureのチームは、同じ頃に「foot and cycle bridge across the River Soar in Leicester」のコンペにも、規模は遥かに小さいものの、同じような構造構成の橋で勝利している。

Forth Replacement Crossing プロジェクト(2016完成予定)


フォース湾に3本目の架橋プロジェクトが進行中である。設計はまたもやDissing+Weitlingで、支間650m×2径間の連続斜張橋で全長は2.6kmである。老朽化が進むフォース道路橋(吊橋)に代わるものとして計画されており、新橋開通後、現フォース道路橋は歩行者、自転車、そして公共交通に限定されて利用される見込みだそうだ。フォース湾を歩いて渡れるというのは、面白そうだ。世界中の橋オタク?がにフォース鉄道橋、左に新しい橋を見にやってくるだろう、と思う。それにしても、Dissing+Weitling のデザインは無駄がなく美しい。Scandinavia-Design のひとつの極みではないだろうか?

Fehmarn Belt bridge プロジェクト(2018完成予定)


ドイツとデンマークを結ぶ1963年完成のFehmarnsund橋(左写真)を渡った,その延長上に計画された、支間724m×3径間の連続斜張橋を中心とする、全長約19kmの架橋プロジェクト (map) である。詳しくはオフィシャルHPをご覧ください。なお、設計はDissing+Weitling
この橋ができると、そこからFarø Bridgesを渡ってコペンハーゲン、さらにØresund_Bridge を渡ってストックホルムにいたる、いわば、北欧の本四架橋の完成である。

Book:自然な構造体 / F.Otto ほか著岩村和夫


「物質的な物体はすべて構造体である。構造体は、より小さな部位や要素から成り立っている。このことは全宇宙、自然界、また自然や人間が作り出すすべてのものに当てはまる。」とは、この本の主題としてフライオットーが巻頭に述べていることであり、全編を貫く哲学である。そして、「自らの知識がきわめて不完全なものであることを認める必要がある。」といって、仕事を開始した記録が本書である。ローランネイ氏橋を眺めていて、無性に読み返したくなったので、このタイミングでこの本をここに載せておく。 (鹿島出版会 SD選書)

Pedestrian bridge Esch by Ney & Partners 


ルクセンブルク南部の鉄工業の中心地「エッシュ」市街において、線路で分断されてきた駅と公園(map参照)を結ぶ歩道橋で、ベルギーの構造デザイナー,ローラン・ネイ事務所の新作である。トラス補剛の箱桁構造とでも言えそうな巧みな構造で、モーメント分布を表現したような外観が印象的である。(写真はHPからDL)


ローラン・ネイ氏の来日講演時の様子は、橋梁と基礎平成21年4月号に「Freedom of Form finding ─ローラン・ネイの思考─」として報文があるので、興味のある方は参照されたい。(当BLOGでも 2008.11.12 にその講演会の印象を記している)

Book:道の文化史 / H.Schreiber / 関 楠生


訳者あとがきに「東京オリンピックをまじかに控えて、どうやら根本的に道路問題を考え直さなければならない時期に来ている」とあるように、日本におけるモータリゼーション夜明け前の、約50年前の1961年に出版された本である。そして著者の序言に「前世紀が鉄道の世紀であったとすれば、今世紀は道路の世紀である」「道は人間の最もすばらしい創造の一つである」「それは昔から何度も繰り返し行われてきた」とあるように、1960年時点での道路考古学と道路考現学が合わさった構成になっている。
さて、鉄道の前は何の世紀かと問われれば、よい意味ばかりではないが国際交易の活性化という意味で、航海の世紀とでも呼べばよいのだろうか? そして21世紀は?
私個人は歩行者復権の世紀だと思っている。街歩き、山歩き、川辺の散歩、サイクリング、ジョギング、などなど。これらのことが高いレベルで一般化していくのが、既に始まっている大きな流れだと思う。(岩波書店)

Book:道路の線形と環境設計 / H.Lorenz中村英夫・中村良夫


先にアメリカのパークウェイを紹介したが、道路設計の古典といえば、大戦後のアウトバーンの設計手法を余すことなく網羅したこの本だろう。そして、そこに展開されている、安全性や走行性のみならず、景観と環境にも最大限の考慮を払う道路設計の哲学は今もってバイブルであり、挑戦課題のままである。
今はもう、図書館か古本屋でしたお目にかかれないかもしれないが、一度ひもとくことを強く薦めたい。 (鹿島出版会 15,000円)

Book:空間 時間 建築 / S.Giedion田 實 訳


「時間 空間 建築」は言わずと知れた建築系の名著であるが、二十数年ぶりに眺めてみたら、新発見があった。第2巻、918ページに、「都市計画における新しいスケール」の最初の小節として「30年代におけるアメリカのパークウェイ」とあり、上記写真に示す Merritt Parkway  が紹介されていた(白黒が当初のもの、カラーは現在の様子)。
パークウェイとアウトバーン、20世紀の象徴とも言えるこの二つの道路事業は1920年頃からその萌芽を迎え、第二次大戦後、一気にその花を咲かせた。と乱暴ながら、勝手に定義しておく。その影響は現在のやまなみハイウェイや名神以降の高速道路に見ることが出来るが、今改めて90年前の道と比べると、思想的な発展は何も感じられないことに気がつく。
思えば、表参道(1920)や御堂筋(1927)等の街路にしても、同様かもしれない。これらは多分にオスマンのパリ改造(1860前後)に倣ったものと推測されるが、この頃からの道路整備について、今一度勉強し直さないといけないな、と再認識。 (丸善 3,500+5,200円)2010.01.31

Book:近代経済学古典選集 デュピュイ:公共事業と経済学栗田 啓子 訳


本書は、19世紀に活躍したフランス高級技術官僚ジュール・デュピュイが残した経済論文を和訳したものである。
彼は土木エンジニアとして道路維持、パリ市の上下水道整備、洪水、それぞれの分野で、高く評価されるとともに、現在につながる経済学の基礎的理論への貢献においても一目おかれる存在でもあった。
「公共事業の効用の測定について」、「通行税が交通路の効用に及ぼす影響について」など、本書に納められている論文を読めば読む程、現代と同じ様な課題に取り組んでいることが判り、インフラ整備における本質的課題は、あまり解決されていないことがよく理解出来る。と同時に、19−20世紀の間に進化したのはテクノロジーであって、人間が介在する部分はあまり変わっていないのだな、との感想にたどり着く。
松岡正剛氏が指摘するように、既に必要な知識は出尽くしており、今はそれらを編集しなおして、解決の処方箋を探求すべき世紀なのかもしれない。
(日本経済評論社 4,500円)2010.01.24

Book:リバーネーム / 岸 由二 著


自分が暮らす地域に、水を供給してくれる川の名前をセカンドネームにして見よう、というのが本書のメッセージである。例えば、鈴木太郎さんが多摩川の水を飲料水としているならば、鈴木”多摩川”太郎 と名乗ろうよ、というわけである。
そんなところから、身近な川を考えてはいかがか?といのが本書の主題である。面白い。小学生等も喜びそうな教育の視点だと思う。
この本を読んでから、水だけでなく、電気やエネルギーなど、日常的には縁がない利根川上流や、遠い異国の地底に依存していることが自覚出来た。鈴木”多摩川””利根川””オマーン”太郎、、などセカンドネームは果てしなく長くなっていきそうだ。
(リトル・モア 1,200円)2010.01.22

Bookとっておきの風景 水辺の土木 / 伊東孝、馬場俊介、他 著


全国21カ所におよぶ土木構造物が作り出す水辺の風景写真集である。西山芳一氏の迫力あるすばらしい写真に、博学多識な論客、伊東孝氏、馬場俊介氏、のお二人が松山巖氏に水辺の土木の魅力を語り聞かせると言った感じの座談会記録が付いている。「建設業界(土工協会誌)」を見ている人にはなじみの陣容で、雰囲気も良く似ており、そこから水辺シリーズを抜き出した様な感じではあるが、この値段でこの内容はお買い得である。(INAX BOOKLET 1,500円) 2010.01.21

Bookおばあちゃんにやさしい デマンド交通システム / 奥山 修司 著


筆者はまず、「交通の専門家でもなくコンピュータやITシステムにも疎い筆者が、こうした仕組みを何故作り出せたか。答えは簡単で門外漢だから、交通事業者やシステム事業者の「できない理由」に耳を傾けないで利用者である高齢者を中心とする需要者サイドから最適な移動サービスはなにかを純粋に追求出来たからだと思います。」と高らかに宣言して、この物語は始まります。とはいっても、内容は全く素人っぽいものではありません。取引デザインのプロだからこその着眼点と、思考過程の素直さがこの本から吸収すべきポイントです。高齢社会におけるニーズのありか、お金が回る仕組みづくりがとても大切なこと、などが学べると思います。(NTT出版 1,400円) 2010.01.21

書籍紹介:ブルネルの偉大なる挑戦 / 佐藤健吉 著


これは、エンジニアが読めば、間違いなく元気になる本である。その意味で皆様にも一読をお勧めします。
ブルネルは、橋、トンネル、鉄道、船、建築、とあらゆる交通インフラを手がけたシビルエンジニアの偉大なる先輩で、橋の世界では、独創的で美しいロイヤルアルバート橋クリフトン吊橋でよく知られる。
この評伝を書いたのは機械学会出身の先生であるが、土木出身のビリントン教授の著作「塔と橋」を参照して、構造芸術にも言及している。その一節には「ブルネルが得意とする数学能力、強度設計力に裏打ちされた構造設計の実践であり、機能と形状による美的調和である。... 」とある。    2010.01.18

書籍紹介:都市のイメージ / Kevin Lynch 著、丹下健三・富田玲子 訳


桑子敏雄氏の唱えた「空間の履歴」という言葉のインパクトから、すぐさま何となく思い出したのが「都市のイメージ」という概念であり、また最近、本屋で復刻版を見かける機会が増えていたので、久しぶりに紐解いてみた。

この本のミソは、都市のイメージを理解する視点として、パス(Paths 道)、エッジ(Edges 縁)、ディストリクト(Districts 地域)、ノード(Nodes 結節点)、ランドマーク(Landmarks 目印)の5つを定義したことにある。

そうではあるのだが、よく考えると、この本が出た「1960年」の後も、それらの要素が都市の価値として等価に重視された訳ではなく、ひたすらランドマークにばかり目がいってしまったように思える。

斜め読みしながら、ぱらっとめくったページに「図34 南側から見たフローレンス」という写真があったが、これを見ながら大いに感慨に耽ってしまった。ミケランジェロ広場から見たと思われるこの景色、その昔も今もほとんど同じである。

日本やアメリカにおいて、1960年と都市のイメージがほとんど変わらない街は少ないと思うが、欧州ではそれ以前のイメージが守られていることが普通に、そこかしこにある。

それは都市のイメージの研究が進んでいるからではなく、イメージを守る社会が成熟しているということなのだろう。(守りたいものが既にそこにあることの自覚が、市民に行き渡っている状態と勝手に定義しておきます)

都市を考える学問的アプローチは、もちろん大切なことだが、それを還元する為には、社会に直接働きかける行動が不可欠ということである。... 長くなって来たのでこのへんで。 2010.01.15

Thermal Bath Vals by Peter Zumthor 


写真(HP等からDL)は、スイス人建築家ピーター・ズントー設計のヴァルスの温泉施設で、今最も訪れてみたい場所でもある、
どこに感動しているかと言えば、建築構造の構成にである。全部で16ケ程の壁(部屋)と屋根で構成されるユニットをパズルのように組み合わせて、その構造の隙間から光を内部に引き込んでいる。こんなアイデア、そう思いつくものではない。時間をかけてイメージを頭に模型等を手でいじりながら閃いたのだと思う。いや、本当にすばらしい。ズントー氏の設計思想はここを参照下さい。
2010.01.15

Tree Top Walk 〜新たな視点場の創造〜


写真(HPからDL)はユーカリ の巨木 (Vally Of Giants )を楽しむ為の橋で、地上約40mに架かっている。場所はオーストラリア/パースより約400km南にある国立公園の中にあって、1996年から供用(有料)されている人気のスポットである。この橋の成功に刺激されたのかどうかはわからないが、パース近郊の公園シドニーの南のIllawarraシンガポールといった所で、類似のコンセプトの橋を目にする機会が、最近増えている。
よく言えば、「新たな視点場の創造」であり、別の見方をすれば、自然の中に、フラットな歩行空間という都会的な快適性を挿入する時代感覚が増大しつつある、とも言える。2地点間の接続という機能を超えて、新たな視点場の体験を提供する目的の歩道橋がこれからも増えて行く気が、とてもする。 2010.01.11

シカゴ美術館 新館に接続する歩道橋


2009年5月にオープンしたシカゴ美術館新館(設計レンゾ・ピアノ)は道路を隔てた隣の公園と歩道橋(Nichols Bridgeway)で接続されている。(写真はHPからDLしたもの)
跨いでいる道路はそのままミシガン湖に向かっているので、橋の上からの眺めが良さそうだ。橋のデザインは至ってシンプルだが、公園から美術館へ向かう途中にミシガン湖を見せる効果がこの橋のデザインの味噌だと、勝手に独り合点している。 2010.01.10

Vélo'V(Lyon) & Verib(Paris)


下に富山の話題を載せましたが、その本家筋に当たるVélo'V(Lyon)Verib(Paris)の写真を、黒島氏から提供いただいたので、ここに載せておきます。
Lyonでは実際に利用し、重宝したそうです。パリ市内では、自転車の利用方法についていろいろと規則&罰金があるらしく、利用を躊躇したそう。(Photo by Kuroshima) 2010.01.10

富山市に Verib 上陸 ...前夜


   サービス名称:シクロシティ富山    ステーション数  :15箇所(富山市中心部)
   自転車台数 :150台         サービス開始予定日:平成22年3月20日(土)

このBlogでも何度も取り上げたJCデュコー社の子会社であるシクロシティ社が本年3月に富山市でバリと同じレンタサイクルシステムを展開するそうである。まさに真打ち登場といったところか。これでこのビジネスモデルの雌雄は決した、...と思える。
外資だろうが何だろうが、良いものはさっさと買う富山市のビジネスセンスに、今は拍手を送りたい。日本行政の遅れがこのような形で地方都市に展開される様は喜ばしいやら悲しいやら、複雑な気持ちではある。
JCデュコー恐るべし。ところで、自転車はどこ製なのかしら?  2010.01.05

たかがバス、されどバス


たかがバス、されどバス。
写真はクリチバ市のHPからDLしたものだが、これを眺めると、バスをLRT的に活用することが可能であることが理解されるだろう。
 1)車体は3連結で、一人の運転手が運べる輸送人員を増大させる。
 2)バス停はチケット販売と屋根を加え、路面をバス床まで上げて快適性を確保。
 3)レールは敷かずに道路を占用する。
これで、費用対効果が大きいBRT(Bus Rapid Transit)となる。

一方、過疎地域でのデマンドバスや、中都市部でのコミュニティバスも、課題を抱えながらも、手がつけやすいという臨機応変度の高さで、日本全国を席巻した。
大型バスは世界にモデルがあるが、デマンドバスやコミュニティバスはありそうでない。ここにこそ、日本が取り組むべき問題があると思う、2010年の年明けである。今年は、ときどき、バス交通システムを取り上げていきたい。(写真はここから)
LinkIconバス交通については、ここも大いに参考となる。  2010.01.04

謹賀新年

あけましておめでとうございます。
本年も、仕事と若手の育成に邁進していく所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。  2010.01.01

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