BOOKS / それでも日本人は「戦争」を選んだ / 加藤陽子著


終戦の日ということで、評判の本を読んでみた。

東大教授である著者が栄光学園(中〜高校生)の生徒に向けた特別授業の記録として記述されており、読みやすく、また興味深いエピソードも数多く出て来て倦きない。目次は、序章:日本近現代史を考える、1章:日清戦争、2章:日露戦争、3章:第一次世界大戦、4章:満州事変と日中戦争、5章:太平洋戦争、となっており、それぞれの「戦争」がどのような経緯で開始されたのかが史実を元に展開されている。

著者自身、歴史は歴史家の「切実な問い」によって紡がれると言っているように、「問い」を大切に扱っているところに好感が持てる。そして、歴史を学ぶ意味や愉しさとともに、歴史的教訓を参照する際に陥りやすい失敗等も紹介することによって効用の限界にも言及して、常に、読者に考えさせるように構成されている。

あー、そうだったんだ、知らなかったよ、考えさせられるなー、というフレーズを心の中でつぶやきながらも、読み終えた後には、日本近現代史を考える視点を新たにすることが出来た。あと、戦争を継続させるために必要な「民意」というものに対する留意という視点も。

余談的に、ルソーの「戦争観」として紹介されていた「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の憲法に対する攻撃、というかたちをとる」というフレーズが印象に残った。

少々脱線するが、これは、スポーツに見られる共通ルールの下での競争という状況ではなく、ルールを押し付ける際に生じる争い事の解決には戦争しか無い、ということと解釈した。
逆から理解すれば、戦争を避けるためには、互いに信じているルールの調整が不可欠であるということになる。しかしながら、この状況になったとしても、ルールを決める主導権を誰が制するか、という不安定状況は変わらない。が、その場合には参加者が増え、互いが互いを牽制するため、戦争は起こりそうで起こらない、まだましな状態にはなる。まぁ、そうとはいっても起きてしまえば、元の木阿弥ではあるが...

脱線ついでに、ルソーの「戦争観」によって、Apple vs Microsoft 、Apple vs Google、Apple vs Samsung という図式も面白く眺められるし、業界の争い事や、発注者と受注者の関係等、も論点が整理されて、ぐっと理解しやすくなるなーという気がしてきました。

2012.08.15

BOOKS / ガリレオ はじめて「宇宙」を見た男 / ジャン・ピエール・モーリ著


絵で読む世界文化史と銘打たれた「知の再発見」双書からガリレオを取り上げます。日本語版監修者序文から少し抜粋します。

ガリレオ・ガリレイが活躍した16−17世紀、科学者という職業はまだ存在しなかった。だから、ガリレオが科学者として身を立てようとすれば、実際に自然を研究して何かを発見・発明し、それが有用であることを人々に納得させる必要があった。彼は、力学や天文学を理論的に研究する卓越した「科学者」であると同時に、望遠鏡や天秤、計算尺などを手作りで製作する優れた「技術者」でもあった。

...そうです。
望遠鏡の製作から地位を築いていくエピソード、当時のイタリアの政治状況、学問の停滞状況とそれでも(造船などの)技術は進歩していった事実と、そこに観察の眼を入れていたガリレオの活動の仕方、彼を受け入れるベネチアの自由さ、いろんな歴史的事実が織りなす物語にわくわくします。(あー塩野七生を読んでいて本当に良かった、と思うことしばしば。)
 でも、彼はトスカナの生まれで、やっぱりフィレンツェへ帰り、そして、学問では敵を上手に論破したけれども、最後は宗教問題に引きづり込まれて苦渋を味わうところまで、人間ガリレオの物語が簡潔に整理された解説と豊富な図版で、一気に読めます。

同じシリーズでニュートンも出ており、こちらも面白く読みましたが、物語としてはガリレオの方が楽しめました。それにしても、外国のこういった図版を使った技術歴史物は充実していますね。

2012.05.01

BOOKS / 力学・素材・構造デザイン / 著者9名


坪井善昭、川口衛、佐々木睦朗、大崎純、植木隆司、竹内徹、河端昌也、川口健一、金箱温春、の9名からなる執筆陣による、実作を紹介しながらの教科書的構造設計論集です。エンジニアの教養として知っておくべき事がいろいろと紹介されています。とても勉強になる本で、お勧めです。

たとえば、第Ⅱ章 構造デザインにおけるスケールの概念 by 川口衛では、「小さな構造でうまくいったことが、大きな構造でもうまくいくとは限らない」ことを、16世紀に活躍したガリレオの「2乗ー3乗則」の紹介から説き始めます。そして、その法則を逆手にとったかのような、19世紀のブルネルの世界初の全機関式の大西洋横断定期船の成功、電話の発明者として著名なベルが開発したテトラ凧の先見性、等を紹介して、エンジニアとしてスケールを理解していることの意味の大切さを気付かせてくれます。

その上で、モントリオール(1976)と北京(2008)の二つのオリンピック競技場設計を題材に、スケール感を欠いた構造の浪費性が解説されます。

とどめとして、100mの巨大鯉のぼりの飛翔に関する考察と実現過程が披露されて、エンジニアの思考とはこうあるべき、といったことを教えてくれます。

(上に示す紙面は、第Ⅴ章から抜粋です。ローラン・ネイのクノッケ歩道橋を題材に、最適設計を試みた事例が紹介されています。)

2012.04.22

BOOKS / 構造物の技術史 / 藤本盛久 編


副題「構造物の資料集成・事典」のとおり、厚さ7cm程の大著です。

橋梁や建造物を中心に、構造力学やそれをベースにした設計理論の体系が形成される過程が解説されているだけでなく、図版も豊富です。土木の由来やらアーキテクトとエンジニアの語源など、エピソード的な話も豊富で、構造物のことなら何でもOKと思われるぐらい、網羅的にカバーされています。勉強の伴侶かつアイデアブックとしても利用価値が高いと思います。値は張りますが、お勧めです。

参考までに目次を以下に引用しておきます。
第1章:旧石器時代   第2章:バビロンの都  第3章:ローマの石造アーチ  
第4章:中世の技術   第5章:構造学の誕生  第6章:力学緒原理と流体力学の確立 
第7章:産業革命への胎動      第8章:錬鉄と蒸気の登場  第9章:錬鉄の時代  
第10章:構造工学の確立      第11章:鋼とコンクリートの登場  
第12章:鋼とコンクリートの時代  第13章:ラーメン力学の展開 

2012.04.22

BOOKS / コンクリート橋 / F.レオンハルト 著


言わずと知れたレオンハルト教授の名「教科書」である。日本版は横道英雄教授の監修のもと、ドイツ留学経験のある成井信氏と上坂康雄氏によって訳されて、昭和58年(1983)に発行されている。写真集の体裁を採っているもう一つの名著「ブリュッケン」(1982)と併せて読まれることが、訳者あとがきにて推奨されているが、まさにその通りだと思います。

特に、5章から9章までのは全橋梁技術者必読の内容で、今もって色褪せていないと思います。
  第5章 橋梁計画     第6章 コンクリート橋の構造形式
  第7章 施工方法     第8章 断面形状の選定
  第9章 コンクリート橋の幅員端部構造

その中でも第5章に書かれている計画プロセスは設計哲学とも言えるもので、私自身何度も読み返しています。今はなかなか手に入らないらしいので、ここにそのコピーを置いておきます。→LinkIcon橋梁計画.pdf

キーワードを羅列すると下記のような感じです。
計画者はこの前にたくさんの橋梁を見ておき、  批判的な観察眼  どれほどの桁高が予測した支間長に対して必要であるかを知っておかなければならない  豊富な知識があって初めて既往の橋梁とは異なった新しい橋の創造が可能となる  同僚の意見も聞き  後で後悔しないように塾考する  同僚、芸術家、批評家それに一般の人々に見せ、意見を聞く必要がある  間違った名誉欲のために貧しい形態の橋を世に示したなら、それこそ長年にわたり人から笑われるはめになる。 などなど...

★先日、若手との飲み会にて本書を知らないとの発言を聞きましたので、ここに挙げておきます。

2012.03.20  

BOOKS / ゴシックとは何か / 酒井 健 著

北フランスには落葉広葉樹を主体とした平地林が拡がっていた。夏はうっそうとして方向感覚が失われ、オオカミや盗賊も跋扈する恐ろしい場所であり、冬は枯れ木の群れが死の気配を漂わせた。農民はその森林を崇拝しつつも、開墾して農業を営み、農村集落を形成してきた。

十世紀ごろから北ヨーロッパ(イギリスや北フランス)で進んだ大開墾運動とそれに続く農業革命により、人口増加と同時に農村における(農業の効率化による)余剰人口が生じる。そして、彼らが食いぶちを求めて都市に集まってくる。農村には地縁、血縁両方の厚い人間関係があったが、都市には無い。その不安な気持ちを埋めるべく、信仰すなわちキリスト教と大聖堂の浸透・発達の土壌(背景)があったと著者は分析する。こんな感じで著者の論が展開されていく。(生産が増加し人口も増加したが、生産量に余裕がなかったため、天候不良ですぐに飢饉になっていたということも頭に入れておきたい)

そして、ゴシック大聖堂とは森林の殿堂であり、その気配によって、不安な新都市住民を引きつけたのだとする。そのコンセプトを軸に、ゴシックにまつわる歴史語りが積み重ねられ、最後は、近代における森林とそれを失う過程を追いかけ、18世紀のゴシック・リバイバルに触れ、イギリス式風景庭園、エッフェル塔、そしてガウディのサグラダファミリアまで登場してくる。

農業革命における修道士会の役割なども勉強でき、人間の「根源的な思い」とも言える森林への憧憬についての考えることも触発される、読み応えのある新書です。ヨーロッパへ旅行する前に読んでおくと、印象に奥行きが出るとも思います。出かける前に一読をお勧めします。(2000年発行・講談社現代新書・680円)

2012.02.12  

BOOK/3.11後の建築と社会デザイン/三浦展・藤村龍至 編著


文字通り、3.11が露わにした国家としての日本が抱える、今の社会のありよう(課題)を建築を通して考える様々な分野の人々が集まったシンポジウムを記録した本である。

しかし、最も印象に残ったのは、建築関係のことではなく、この本で初めて見かけた次のフレーズである。
「成長路線という経済の論理はまったく被災していない。」

つまり、3.11をきっかけにして、いろいろな事柄が、振り返えられ、変えるべきは変えようと、皆が考えているこのさなかにも、
経済のやり方だけは、変えようとする動きが希薄である点を問題提起している発言である。

...そんなことを考えてもみなかっただけに、ハッとさせられた。
土木、建築、造園、デザイン、等の工学系?のコラボは当然これからも、当たり前にしていかねばならないのだが、法律、および経済の人たちとも膝詰めで対話していかないと、社会デザインという課題(目標)は解けないのだと、再認識した次第。

がしかし、身近なところの接点がなかなか思いつかない。これは、確かに難問だ。と同時に、チャレンジしがいがありそうだ。

2011.12.14

雑誌 WIRED について


ワイヤード。1996年前後によく読んでいた雑誌。日本版は1998年で休刊していたが、今年2011年、GQ JAPANの増刊号として変則的に復刊した。

そのジョブズ特集が第2巻として発売されたので、久しぶりに買ってみた。ここ最近、ジョブズは食傷気味なので、その肝心の記事はまだ読んでいないが、他の記事、たとえば、野球のデータ革命のサッカーへの影響、海底ケーブルの沿岸基地の写真、学術論文の新しいポータル?Mendeleyの誕生物語、など、読み応えのある記事が並んでいて、雑誌の鮮度は変わっていなかったのが嬉しい。これで480円はお買い得だ。

思い起こせば、1996年のWIREDのジョブズへのインタビュー記事に載っていた、洗濯機の買い物家族会議の話しは、印象的で、鮮烈に覚えていたが、これは、アイザックソンによってジョブズの伝記にも引用されていたので、あーやっぱりなるほど、と思ったものだ。その時の表紙は片山右京で、モータスポーツと情報化、それを人間が如何に繰るか、といったテーマが特集されていた。

これなんか、最新号のサッカーのデータ利用に関する記事に通じる論点で、この雑誌の視座が15年経っても変わらず鮮度を保っていることにも、再び驚かされている。

昔の日本版WIREDの編集長・小林弘人氏は、ネット時代の今日、フローの情報を寄せ集める雑誌は廃れ、「文脈」を編んでいる雑誌だけが生き残る、と言いきっているが、なるほど至言であると思った次第。

2011.11.27

BOOK/Steve Jobs/ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳


1990年からのマックユーザーであり、いわゆるAppleオタクの一人として、読まずにはおれなかった本の、ごくごく個人的な理解と感想の断片を以下に書き留めておきます。

  • ジョブズは才能ある人を見抜き、近づき、蜜月を過ごすが、その才を吸収すると、攻撃に走り、離別するというのが若い頃のパターンだったようだ。この性格でアップルを興し、そして放逐された。
  • 再起を喫したネクスト社では最高のチームと最高の製品を作り出したが事業は成功しなかった、という経験をしている。その一方、同時期に買収したピクサー社において、アートとテクノロジーの融合を再発見し、アップル復帰後の成功の礎をこの時代に築いている。
  • 人間、何が幸いするかわからない、を地でいくジェットコースター人生を経たジョブズであるからこそ、スタンフォード大学での講演のように、人の心を打つことばが自然と出てくるのだろう。でも、それは相当覚悟のいる人生への挑戦を促す言葉であり、常識的な感覚で受け取っていては火傷をするのが落ちである。時代に数人しか出てこない天才ならではの言葉でもある。
  • ゼロックス・パロアルト研究所へ出向いた時の「業界史上最大級の強盗事件」の状況描写には驚愕した。大企業の研究所で生まれていた今のITにつながるほとんど全てともいってよい技術が、Appleの若い技術陣に吸収された瞬間がみごとに描き出されている。ゼロックス側の責任者であるエンゲルバートの伝記を読んでいたので、発明のいきさつは知っていたが、盗みの現場のこの臨場感は、この本の1つのクライマックスだと思う。何かが起きる瞬間が企業と人間の物語として描かれている。
  • がしかし、あの時点でAppleが盗んでくれたおかげで今がある気もするので、一概に悪いこととは思えないところがポイントだ。経営者とイノベーションの関係をこれほど見事に示した「事件とその後の顛末」は他にないだろう。
  • この事件を境にして、盗んだモノを形にする物語が始まるのだが、これがまたすごい。不可能を可能にするための、エキセントリックなまでの彼の言動がすごい。だから成し遂げたのか?、こればかりは、読むだけではよくわからない。かの有名な「現実歪曲フィールド」は、(善意に解釈すれば、)能力のある人間からさらに一段上の成果を引き出すマジックの呪文そのものだと解釈される。
  • 若い頃の交友関係、そして結婚、家族への思い、などの物語は、iphotoやimovieのデモに出てくる家族写真やアクティビティのイメージに重なる。ひどいヤツだったのだけれども、最後には良き家族に恵まれた幸せな人になったのだという、印象だ。アップル復帰後の製品イメージにどことなく流れていた家族に対する愛は、彼の家族の状況がそうさせていたのだと、思った。

きりがないので、この辺で。

2011.11.05

BOOK / 津波と防災 三陸津波始末/ 山下文男 2008年発行

東日本大震災2011.0311の3年前に発行された本である。(後輩に勧められて読んだ次第。)著者は1982年以来この種の著作を10冊世に問うてきた。曰く

「これらの著作や講演の中で私は、大量死という、津波災害の分けても忌まわしい特徴を明らかにするとともに、三陸津波をはじめ、津波災害の歴史的教訓に則して、機敏に避難すること、避難させることが津波防災の究極のテーマであると訴え続けてきた。災害で失われるものは数多いが、命より大切なものはこの世にない。この単純な考え方が、少々おこまがしいが私の防災思想の確信なのである。」

さらに、
「...○○教授は、災害は本質的には社会現象であり「先祖たちの痛切な体験がたちまち風化して子孫に伝わらないのは悲しいことである」と指摘して、被災体験伝承の重要性を強調しておられる。
同様の考え方に立つ私は、数年前から国または県による「津波伝承館」の設置を提唱して方々にはたらきかけてきた。然し、残念ながら、先の短い私の生存中には実現が難しいようである。中央防災会議のメンバーを含む錚々たる学者・研究者の賛同を得、激励も受けたのだが、結局は、民間の一研究者の言として、軽く聞き流されてしまった感じである。納得できないのは、趣旨には賛成だが、政府には金がないから?などとお先回りし、はじめからあきらめていることである。かつて1935年、義務教育課程に地震知識の教材を取り入れるよう、文部大臣の出席する集会で舌鋒鋭く迫り、ついにはそれを実現させた今村明恒博士が存命であったなら....と思わずにはいられない。...」

ひとりの社会人として、誠に耳が痛い。自分の身の回りでも同じように、はじめからあきらめていることはないか? 次世代に禍根を残すようなことを見過ごしていないか? ....
そこを自問することが、0311を境に多くなっていたが、本書を読んではっきりした。
自分なりの弔いの仕方が...

2011.05.15  

BOOK / コミュニティデザイン 人がつながるしくみをつくる/ 山崎亮

著者は37歳、8名程の事務所(Studio-L)を率いて、日本中に散らばるプロジェクトを手がける実務者であり、いろいろな大学の非常勤講師を務めてきた教育者でもある。(この4月からは京都造形芸術大学教授に就任、教育活動の拠点を一つに絞ったようだ。)彼のプレゼンを何度か聞いたことがあるが、すばらしく上手である。聴衆を引き込む力量はスティーブ・ジョブズ並だ。そんな著者が、これまでに取り組んできた仕事を自身の言葉で解説したのが本書である。

まちづくりは、そこに暮らす人が主役であるべきなのだが、してもらうことに慣れきった人々をその気にさせることは、実に難しい仕事である。それを、彼は爽やかに、さらっとやってのけてしまう。その秘訣が語られている。人を動かすマネージャー、ファシリテーターとしても一流であることが、よく判る。「まちづくり」に取り組む人、必読の書である。

「僕たちの仕事は地域に住む人の話を聞き出すことからはじまる」「モノをつくるのをやめると人が見えてきた」、「100万人の人が一度だけ訪れる島ではなく、1万人の人が100回訪れたくなる島」、「課題を見つけたらすぐに企画書を書くこと、必要に応じて何度も何度も書き直すこと」「デザインは社会の課題を解決するためのツールである」、「状況はまだまだ好転させられる」...
宝のような言葉が次から次へと出てくる。 すごい人が登場したモンだ。これからのますますの活躍が期待される。

2011.05.12  

BOOK / 近代都市パリの誕生 / 北河 大次郎著

副題にあるとおり、鉄道・メトロ時代の熱狂の渦中にあった19世紀から20世紀初頭のパリを舞台とするメトロ建設物語である。膨大の資料をもとに、その時代の都市建設の様子が描き出されており、土木学生必読の本といっても差し支えないだろう。

都市の構想はどのように立案され、議論され、権力の間で揺らぎ、落ち着くべきところへ落ち着いていくか。この部分も丁寧に書き込まれていて、ゴシップ記事を読むかのような楽しみがある。

パリならではの景観の論争も網羅されているし、蒸気から電気へと移行する鉄道技術の進歩?の影響、当時のフランスにおける歴史遺産保護の潮流などにも筆が及び、読むスピードに情報を脳にインプットするのが追いつかない程だ。

今の日本でも議論されているのと同じようなトレードオフの課題が19世紀から20世紀にかけて、パリにおいても盛んに論じられていたことを知り、そこからいろいろなヒントをいただいた。個人的な見解だが、端的に言うと、これからは今以上に「時間」の概念を吟味してデザインしないといけない、ということになる。時間軸は、過去の方向と未来の方向と両方だ。そんな読後感を味わいつつ、裏表紙を閉じた。

BOOK / 怯えの時代 / 内山 節著

次第にたちゆかなくなるかも知れないという不安。 
順序は正しく理解せよ。たとえば、消費市場の成立→流通→生産の順に物事は動いてきた。流通が生産を促すのであってその反対ではない。

自然は無限にあるというのが、経済学の仮定だそうだ。そのような杜撰な仮定の上に成り立っている。だから破綻するのは当然の帰結。

喪失の上で成り立っている自由。巨大システムの前で無力な個人。

現代は、資本主義的な市場経済、近代的な市民社会、国民国家、この3つで成立している。勤勉に働くことで幸せになると言う倫理観が支配。ただし、皆が幸せになるわけではなかった結果が出てきた。

矛盾を内在した現代社会。隠したいモノがどんどん顕在化する現代。根本的にあり方を変革する時代に突入していることがこの本では整理されている。

結論的なヒントとして、著者は連帯というキーワードを最後に掲げている。

いろいろと考えさせられる論考が詰まっている。

BOOK / まちづくりのへのブレークスルー(水辺を市民の手に)
/ GS群団連帯編

市民に開かれた公共事業にしたい、との思いは、市民のみならず行政側にもプロの設計者にも共通の思いがある。しかしながら、現実にはいろいろな制限や慣習等に縛られ、流されて、志半ばで矢折れ力尽きることが多い。

そのような現実にさらされながらも、見事に初志を貫徹した4つの事例をとりあげ、そのキーパーソンが語り合ったシンポジウムの記録がこの本である。語られている内容が実に熱いし、知恵と胆力にあふれている。当事者の方々はそれは大変な苦労だったと思われるが、このような方々が日本全国にまんべんなくいることが、21世紀に向けての国力の源泉なのだと言いたくなるぐらいだ。

編集者の努力もすばらしく、ひとつひとつの標題の付け方に工夫があり、読み手の理解を助けてくれる。シンポジウムの和気藹々とした雰囲気も伝わってくる。まちづくりに関わる人々は必読の書だと思います。

また、本書では随所に「ふつうのデザイン」論が出てきます。気をつけて読んでいないと見落としがちなぐらい、普通に、デザインの本質論が語られています。たとえば、記憶を呼び覚ましてデザインの方向を決める、工夫すると他人が気がつかない状態になる、子供目線を大事にする、などなど。

がしかし、このシンポジウムでも話題になっていた、これらの事業で活躍した人々の次の世代から「人」が出てくるのか、との疑問はここでも「今後の課題」として残されたままです。やっぱり、ここなんですね、現代の課題は。解決策として、(精神の自由を確保するため)一回外に出て旅(修行)をせんといかんのではないかな、と思う今日この頃です。

BOOK / Yanagi Design / (財)柳工業デザイン研究会 編


柳宗理と柳工業デザイン研究会のしごとの全貌をまとめた本です(2008年出版)。これまでに出版された本からも、柳先生ご自身による「デザイン考」など重要な文章と写真も再掲されており、まさに集大成といった趣です。

私事で恐縮ですが、20年ほど前の2年間、仕事の関係で、先生の事務所に頻繁にお邪魔していた時期があり、とても多くのことを学ばさせていただきました。その最も重要なエッセンスが、手を動かし「ものをつくりながら考える」創造活動の基本であり、考え抜いた果てにあるのは、誰がデザインしたか忘れるほどの「ふつう」に到達することでした。

この本でも、その二つのことが繰り返し主張されていて、懐かしく読み返しました。そうは言うものの、チームワークの成果として、「ふつう」に到達するのは非常な困難です。普通に到達するために、最先端の技術にチャレンジしなければならないこともあるし、悪しき前例主義とも、まちがった功名心とも闘わなければなりません。そうゆうわけで何度もくじけながらも、いつか本当の普通に到達したいと今でも念じているわけです。

そうしたことを再確認させてくれた本でした。特に、柳先生の「デザイン考」は全く古くならないデザイン哲学であり、是非とも若い人にこそ読んでいただきたいと願います。

BOOK / 21世紀の国富論 / 原丈二 著


アメリカ式資本主義を批判している本の続きです。
主題は「世界から必要とされる21世紀の日本へ」です。

著者の略歴はネットに任せるとして、いや、本当にすばらしい方がいらっしゃるのだと感嘆しました。新しい産業を生みだし、国の経済に豊かさをもたらす本質的なモノが「新しい技術」に他ならない、これが著者の最大のメッセージであり、そのための哲学、方法論が本書で展開されている。偉そうにも「完全同意」させていただく。

不完全であっても、コンセプトさえ良ければ説得するのは簡単です。...欧米のトップです。本質的でない些細なマイナスであっても解決できるまで待つという保守的な組織です。...日本の企業です。

こんなことが経験に基づき書かれている。
そして、著者自身は、果てしないチャレンジを今も続けている。すごい!

BOOK / これからの「正義」の話をしよう / Michael J. Sandel 著


今、話題の本です。ダウンロードしてipadで読みました。

著者のメッセージは、控えめに、最後に語られている。アジテートするのではなく、問題提起で抑えているところは好感が持てた。だからこそ印象に残ったとも言えるし、付け焼き刃的な不完全さも感じた。要するにどっちつかずなのである。東洋人の我々にはなじみの深い「中庸という言葉で表されている概念」が語られているようにも感じた。

全般に参照されているのは西洋哲学の系譜であり、本書の主題は西洋における正義の定義の悩みということかな?とも感じた。一億総中流社会と揶揄されていた頃の日本が一番幸せだったのかも知れないと思いつつ、これからの「生き方」について考えるのを促される、そんな本でした。

BOOK / 土地法口話 by 篠塚昭次


建築自由の原則、都市計画法の起源(設立の経緯)などを調べている時に出くわした本(1998初版)で、著者は土地法を専門とする早稲田大学法学部教授(当時)です。amazonでは品切れになっていますが、読みやすくて,この方面の知識をさらっと頭に入れるのには重宝な読み物として推薦します。

参考までに、章立てをおさらいしておきますと、土地法の体系、土地法と経済、都市計画法、建築基準法、土地区画整理法、都市再開発法、土地収用法、震災復興法、となっています。

節の題目を拾うと、土地問題と哲学・科学、国土総合開発法・1950「立ち上がれ!頑張ろう!」、都市計画法・1968「ちょっと待て、環境も考えよう1」、土地基本法・1989「反省しよう!」、コルルビジェの影響、市民エゴ?、欲と二人連れの再開発?、景観・風景、などなど、読者の興味を惹いて読ませます。

BOOK: PIER LUIGI NERVI PROCESS Architecture N0.23

ピエール・ルイジ・ネルヴィは1891年イタリア生まれの偉大な構造家である。本書は1981年にプロセスアーキテクチャー第23号として発行された彼の作品集であり、その前年に開催されたネルヴィ没後一周年を記念した展覧会とシンポジウムを契機として編集されたものだ、そうである。

巻頭に特集されているネルヴィの言葉から拾ってみる。【時代とともに、大規模公共建築、飛行場、鉄道駅、工場等、RC造でつくられるべき建物がかつてないほど増えてきました。この新しい材料と新しいテーマの出現によって、建築そのものが新しく生まれ変わらざるを得なくなってきました。こういった建築では安定性、施工性が重要なテーマであり、計画当初からそれらについて研究する必要が出てくるわけです。この意味で建築家と技術者と施工者との共同作業が絶対的に必要になり、それは三者が一体的に仕事をした、あのゴシック時代に立ち返る必要性を意味するものでしょう。ゴシック時代は建設技術が最も高らかに歌い上げられ、それが表現された時代でした。】とある。

5、60年前ぐらいの発言と思われるこのことは建設の本質をついていると思うが、最近の日本の土木界は、逆の方向にバイアスがかかっているのが気になるところである。 2010.02.20

BOOK: トロハの構造デザイン 川口 衛 監修・解説

エドゥアルド・トロハは1899年スペイン生まれの偉大な構造家である。本書は1958年、トロハ自身が英語で著した本の訳本(2002年出版)であり、彼の「設計思想とその背景」を川口衛先生が解説したものである。

2000年、絶版になっていた本書を再出版する際、スペインの公共事業大臣が書いた序文の一節に【建設分野の活動において、美的価値観への配慮が深く探求されつつある今日、トロハの作品は工学作品の真の価値に関して、明確な視点を与えるものである。】とある。

川口先生の解説に【トロハは、現代の設計者が果たすべき課題は、「機能を十分に果たし」、「形が魅力的な」構造物を、「できるだけ経済的に」創り出すことである、と述べている。】とある。

トロハが活躍した同時代の構造家には、マイヤール、フレシネー、そして彼とよく比較されるネルヴィがいる。代表的な橋は写真DL先HP)といったところである。
構造物の美を考える学生には必読の書だと思う。 2010.02.20

Book:自然な構造体 / F.Otto ほか著岩村和夫


「物質的な物体はすべて構造体である。構造体は、より小さな部位や要素から成り立っている。このことは全宇宙、自然界、また自然や人間が作り出すすべてのものに当てはまる。」とは、この本の主題としてフライオットーが巻頭に述べていることであり、全編を貫く哲学である。そして、「自らの知識がきわめて不完全なものであることを認める必要がある。」といって、仕事を開始した記録が本書である。ローランネイ氏の橋を眺めていて、無性に読み返したくなったので、このタイミングでこの本をここに載せておく。 (鹿島出版会 SD選書)2010.02.07

Book:道の文化史 / H.Schreiber / 関 楠生


訳者あとがきに「東京オリンピックをまじかに控えて、どうやら根本的に道路問題を考え直さなければならない時期に来ている」とあるように、日本におけるモータリゼーション夜明け前の、約50年前の1961年に出版された本である。そして著者の序言に「前世紀が鉄道の世紀であったとすれば、今世紀は道路の世紀である」「道は人間の最もすばらしい創造の一つである」「それは昔から何度も繰り返し行われてきた」とあるように、1960年時点での道路考古学と道路考現学が合わさった構成になっている。
さて、鉄道の前は何の世紀かと問われれば、よい意味ばかりではないが国際交易の活性化という意味で、航海の世紀とでも呼べばよいのだろうか? そして21世紀は?
私個人は歩行者復権の世紀だと思っている。街歩き、山歩き、川辺の散歩、サイクリング、ジョギング、などなど。これらのことが高いレベルで一般化していくのが、既に始まっている大きな流れだと思う。(岩波書店)2010.02.06

Book:道路の線形と環境設計 / H.Lorenz中村英夫・中村良夫


先にアメリカのパークウェイを紹介したが、道路設計の古典といえば、大戦後のアウトバーンの設計手法を余すことなく網羅したこの本だろう。そして、そこに展開されている、安全性や走行性のみならず、景観と環境にも最大限の考慮を払う道路設計の哲学は今もってバイブルであり、挑戦課題のままである。
若い人はもう、図書館か古本屋でしたお目にかかれないかもしれないが、一度ひもとくことを強く薦めたい。 (鹿島出版会 15,000円)2010.02.02

Book:空間 時間 建築 / S.Giedion田 實 訳


「時間 空間 建築」は言わずと知れた建築系の名著であるが、二十数年ぶりに眺めてみたら、新発見があった。第2巻、918ページに、「都市計画における新しいスケール」の最初の小節として「30年代におけるアメリカのパークウェイ」とあり、上記写真に示す Merritt Parkway  が紹介されていた(白黒が当初のもの、カラーは現在の様子)。
パークウェイとアウトバーン、20世紀の象徴とも言えるこの二つの道路事業は1920年頃からその萌芽を迎え、第二次大戦後、一気にその花を咲かせた。と乱暴ながら、勝手に定義しておく。その影響は現在のやまなみハイウェイや名神以降の高速道路に見ることが出来るが、今改めて90年前の道と比べると、思想的な発展は何も感じられないことに気がつく。
思えば、表参道(1920)や御堂筋(1927)等の街路にしても、同様かもしれない。これらは多分にオスマンのパリ改造(1860前後)に倣ったものと推測されるが、この頃からの道路整備について、今一度勉強し直さないといけないな、と再認識。 (丸善 3,500+5,200円)2010.01.31

Book:近代経済学古典選集 デュピュイ:公共事業と経済学栗田 啓子 訳


本書は、19世紀に活躍したフランス高級技術官僚ジュール・デュピュイが残した経済論文を和訳したものである。
彼は土木エンジニアとして道路維持、パリ市の上下水道整備、洪水、それぞれの分野で、高く評価されるとともに、現在につながる経済学の基礎的理論への貢献においても一目おかれる存在でもあった。
「公共事業の効用の測定について」、「通行税が交通路の効用に及ぼす影響について」など、本書に納められている論文を読めば読む程、現代と同じ様な課題に取り組んでいることが判り、インフラ整備における本質的課題は、あまり解決されていないことがよく理解出来る。と同時に、19−20世紀の間に進化したのはテクノロジーであって、人間が介在する部分はあまり変わっていないのだな、との感想にたどり着く。
松岡正剛氏が指摘するように、既に必要な知識は出尽くしており、今はそれらを編集しなおして、解決の処方箋を探求すべき世紀なのかもしれない。
(日本経済評論社 4,500円)2010.01.24

Book:リバーネーム / 岸 由二 著


自分が暮らす地域に、水を供給してくれる川の名前をセカンドネームにして見よう、というのが本書のメッセージである。例えば、鈴木太郎さんが多摩川の水を飲料水としているならば、鈴木”多摩川”太郎 と名乗ろうよ、というわけである。
そんなところから、身近な川を考えてはいかがか?といのが本書の主題である。面白い。小学生等も喜びそうな教育の視点だと思う。
この本を読んでから、水だけでなく、電気やエネルギーなど、日常的には縁がない利根川上流や、遠い異国の地底に依存していることが自覚出来た。鈴木”多摩川””利根川””オマーン”太郎、、などセカンドネームは果てしなく長くなっていきそうだ。
(リトル・モア 1,200円)2010.01.22

Bookとっておきの風景 水辺の土木 / 伊東孝、馬場俊介、他 著


全国21カ所におよぶ土木構造物が作り出す水辺の風景写真集である。西山芳一氏の迫力あるすばらしい写真に、博学多識な論客、伊東孝氏、馬場俊介氏、のお二人が松山巖氏に水辺の土木の魅力を語り聞かせると言った感じの座談会記録が付いている。を見ている人にはなじみの陣容で、雰囲気も良く似ており、そこから水辺シリーズを抜き出した様な感じではあるが、この値段でこの内容はお買い得である。(INAX BOOKLET 1,500円) 2010.01.21

Bookおばあちゃんにやさしい デマンド交通システム / 奥山 修司 著


筆者はまず、「交通の専門家でもなくコンピュータやITシステムにも疎い筆者が、こうした仕組みを何故作り出せたか。答えは簡単で門外漢だから、交通事業者やシステム事業者の「できない理由」に耳を傾けないで利用者である高齢者を中心とする需要者サイドから最適な移動サービスはなにかを純粋に追求出来たからだと思います。」と高らかに宣言して、この物語は始まります。とはいっても、内容は全く素人っぽいものではありません。取引デザインのプロだからこその着眼点と、思考過程の素直さがこの本から吸収すべきポイントです。高齢社会におけるニーズのありか、お金が回る仕組みづくりがとても大切なこと、などが学べると思います。(NTT出版 1,400円) 2010.01.21

書籍紹介:ブルネルの偉大なる挑戦 / 佐藤健吉 著


これは、エンジニアが読めば、間違いなく元気になる本である。その意味で皆様にも一読をお勧めします。
ブルネルは、橋、トンネル、鉄道、船、建築、とあらゆる交通インフラを手がけたシビルエンジニアの偉大なる先輩で、橋の世界では、独創的で美しいロイヤルアルバート橋クリフトン吊橋でよく知られる。
この評伝を書いたのは機会学会出身の先生であるが、土木出身のビリントン教授の著作「橋と塔」を参照して、構造芸術にも言及している。その一節には「ブルネルが得意とする数学能力、強度設計力に裏打ちされた構造設計の実践であり、機能と形状による美的調和である。... 」とある。    2010.01.18

書籍紹介:都市のイメージ / Kevin Lynch 著、丹下健三・富田玲子 訳


桑子敏雄氏の唱えた「空間の履歴」という言葉のインパクトから、すぐさま何となく思い出したのが「都市のイメージ」という概念であり、また最近、本屋で復刻版を見かける機会が増えていたので、久しぶりに紐解いてみた。

この本のミソは、都市のイメージを理解する視点として、パス(Paths 道)、エッジ(Edges 縁)、ディストリクト(Districts 地域)、ノード(Nodes 結節点)、ランドマーク(Landmarks 目印)の5つを定義したことにある。

そうではあるのだが、よく考えると、この本が出た「1960年」の後も、それらの要素が都市の価値として等価に重視された訳ではなく、ひたすらランドマークにばかり目がいってしまったように思える。

斜め読みしながら、ぱらっとめくったページに「図34 南側から見たフローレンス」という写真があったが、これを見ながら大いに感慨に耽ってしまった。ミケランジェロ広場から見たと思われるこの景色、その昔も今もほとんど同じである。

日本やアメリカにおいて、1960年と都市のイメージがほとんど変わらない街は少ないと思うが、欧州ではそれ以前のイメージが守られていることが普通に、そこかしこにある。

それは都市のイメージの研究が進んでいるからではなく、イメージを守る社会が成熟しているということなのだろう。(守りたいものが既にそこにあることの自覚が、市民に行き渡っている状態と勝手に定義しておきます)

都市を考える学問的アプローチは、もちろん大切なことだが、それを還元する為には、社会に直接働きかける行動が不可欠ということである。... 長くなって来たのでこのへんで。 2010.01.15

書籍紹介:空間の履歴 / 桑子敏雄著


桑子敏雄氏は今土木界で注目の哲学者であり、風景論者である。本書の序に述べられている「たった一つの言葉が人生の旅路で見る風景を一変させてしまう」、そんな力を持った言葉が表題にある「空間の履歴」である。
誤解を恐れずに簡単に言えば、人の人生に履歴書があるように、空間にも履歴書があり、それが空間を読み解く大事な情報源となる、という意味である。この言葉に、多くの土木人が膝をうったのであるが、遅ればせながら私も膝を打っている。 2009.12.10

Renzo Piano 作品集

池袋、junku堂にてレンゾ・ピアノの作品集を購入。
学生時代からずっとwatchしてきたので、この辺りでもう一度見直しておこうと考えたのが動機。
思えば、1989年に池袋で開催されたピアノの展覧会は良かった。実物大モックアップから検討模型、報告書に至るまでが展示されており、当時20代の私には大きな刺激となった。ポンピドゥー改装後の展覧会(2000年)の様子がこの本に載っていたが、同じ様な趣旨で展示がされていたのを懐かしく拝見した。 2009.09.27
LinkIconRenzoPianoBuildingWorkshop

M+M Design 事務所 初の作品集

日本における橋梁デザインの開拓者であるエムアンドエムデザイン事務所初の作品集が出版された。
解説付きで紹介される16の橋を見、9のコラムと1の対談集を読むことで、事務所を率いる大野美代子さんのデザイン哲学が理解される巧みな構成になっている。文章は平易な表現に気が使われており、橋の初心者から玄人まで、大いに楽しめる本に仕上がっている。一読をお勧めします。
(鹿島出版会、3400円) 2009.09.26

健在なり 浜野安宏氏


浜野安宏氏が「幸せのまちづくり-生活地へ-」というまちづくり関連の本を久しぶりに出してきた(2009.05出版)。横浜ポートサイド以降、まちづくりの面であまりお名前を見かけなくなっていましたが、なんの、しっかりご健在でした。あとがきから引用させていただきます。「私のやろうとしていることは、都市計画でも、建築でも、デザインでも、もちろん空間プロデュースでも、商業プロデュースでもない。それらのすべてとかかわっているが、「まちづくり」ではくくりきれない人間の幸せな日常生活を創造すること-商業地でも住宅地でもない幸せな「生活地」を創ることである」...その実践編は今、キャットストリート界隈、青山通りで見ることができる。いろいろな肩書きをお持ちだが、NPO渋谷青山景観整備機構専務理事が旬のものと理解した。(学陽書房 2000円) 2009.07.04

書籍紹介13:造型と構造と / 山本学治建築論集2


学生時代に、ギーディオンの「空間・時間・建築」とともに、構造とデザインを考えるきっかけを作ってくれた本。マイヤール、ネルビ、アラップの構造についての明快な解説に心を踊らせたものです。特にアラップのダーラムの徒歩橋における、計画、断面設計、建設方法への感動と尊敬の念は今もって続いている。(鹿島出版会 2200円) 2009.06.19

書籍紹介12:絵とき建築材料 / 5名の共著


土木デザインを学ぶ若い人に、いつも奨めている建築材料の教科書です。見開き2ページで82の項目について、材料の歴史や、長所短所、製造法、工法などが簡潔にして必要十分の知識が絵と図表つきで解説(2色刷り)されています。
大項目は、木材、石材、セメント・コンクリート、金属、焼成品、プラスチック、防水材料、ガラス、屋根材、ボード・合板、左官材料、内・外装材、天井・床仕上、塗料・接着剤、建具、設備機器、外構・仮設、今後の課題、用語解説、となっています。(オーム社 2800円) 2009.05.17

書籍紹介11:環境色彩計画 / 吉田愼悟 著


外壁色の選択に迷ったら10YRの彩度3以下、道路は地域の土の色を基本とする、道路付属物も10YRで揃える、などが本書で最もアピールしたい結論だと思う。そこに至る著者自身の体験と思索の経緯が、日本の伝統的街並みを題材に丁寧に解説されている。色に対する思い、人との交流、理論、実践、提言、すべてプロフェッションならではの視点で貫かれている。環境色彩の勉強をする人にお奨めします。(丸善 3800円) 2009.05.17

書籍紹介10:文明の海洋史観 / 川勝平太 著


文明の生態史観(1957年)が提示した、中央に位置する乾燥地帯の暴力、辺境にのみ成立した封建制、といった要素をベースに、主に日本と西ヨーロッパを海洋交流史の観点から再定義?したのがこの本(1997年)である。両書に共通しているのは、進化ではなく遷移や棲み分けといった考え方で、多様化というキーワードも随所に出てくる。今、環境の世紀と言われ「生物多様性」といった文言が飛び交っているが、実は歴史のダイナミズムを考える上でも「多様性」を考えることが重要であると教えてくれる本であると思う。(中公業書 1700円) 2009.05.06

書籍紹介9:文明の生態史観 / 梅棹忠夫 著


連休を利用して、久しぶりに読み返してみた。50年前の名著ゆえに解説は省くが、また感じ入ってしまった。旅すること、議論すること、違う分野から眺めること、等々、学際分野の極め方のエッセンスがここにはちりばめられている。そして、現代にも通じる課題のすべてがこの本には提示されている。そのすごさと時の流れのはかなさに感じ入ってしまったのである。(中公文庫 743円) 2009.05.06

日本の「安心」はなぜ消えたのか / 山岸俊男 著


副題は「社会心理学から見た現代日本の問題点」。いわゆる古き良き日本があった時代の行動原理を安心社会とし、これからはそこを卒業して信頼社会を形成しなければならない、というのがこの本のメッセージ。第1章:心がけでは何も変わらない、第7章:なぜ若者たちは空気を読むのか、第9章:信頼社会の作り方、など、章立てからして分かり易く読みやすい。「ほぼ日」で推薦されていた通り、随所にひざを打つところが出てきます。「武士道」やら「品格」に辟易している方にオススメです。(集英社 1600円) 2009.05.05

書籍紹介8:土地の文明 / 竹村公太郎 著


地形とデータを駆使して、例えば矢作川を題材に徳川家と吉良家の関係を整理し、忠臣蔵が起きた背景を推理したり、利根川治水の本当の目的を広大で肥沃な土地の創出と見立てたり、と次から次へと前頭葉が刺激される論理を構築してくスリルに満ちた本である。本書と前後して出版されている「日本文明の謎を解く(清流出版)」、「幸運な文明(PHP研究所)」も同様に面白い。土木を文明論的視点で見直したい方にお奨めします。(PHP研究所 1600円) 2009.05.05

書籍紹介7:舗装と下水道の文化 / 岡 並木 著


当時、まだ20代だった土木工学科出身の私に、文系出身の著者が土木の広がりを教えてくれた。そこがショックだった本です。それまで、下水道に文化があるなどという発想さえなかったことを大いに恥じたものだが、今読み返しても新鮮な視点を提供してくれる。現地と現人にあたる記者魂(執筆当時の著者は新聞記者)の為せる技でしょうか?1985年出版の本だが、入手は古本屋やインターネット経由でしか手に入らないようであるのが残念。読んで損はないので興味を持った方は取り寄せをお奨めします。(論創社 2000円(当時)) 2009.05.05

書籍紹介6:海の都の物語 / 塩野七生 著


16年前の初夏、某書店のフェアで手に取ったのがこの本。学生時代に読んだ庄司薫の著書に塩野七生の名前が登場していたのを思い出し、あれは実在の人物だったのだ、と思ったのがきっかけ。随所に土木を讃えるような記述があり、あれよあれよと読み進めるうちに上下2巻、1000ページ強(中公文庫)を一気に読み通した。土木技術者にもファンが多いと言われるとおり、私もそれ以来の塩野さんファンです。まだお読みになっていない方は、手に取ってみることをお奨めします。差し当たり、写真が多く技術書っぽい、〜ローマ人の物語「すべての道はローマに通ず」〜 あたりはいかがでしょうか?(PS:塩野さんと庄司さんは某高校の同級生だそうです。) 2009.05.04

書籍紹介5:橋と鋼


鋼橋を学ぼうとする若い人に、いつも薦めている本である。少々、値は張るがそれだけの価値がある。少なく見積もって10年は側において置けるので650円/年と考えれば良い、との言葉を添えている。
第1章:鋼ってなんだろう、第6章:鋼構造物の破壊、第7章:鋼を加工する、第8章:鋼をつなぐ、など、橋を考える上で必要不可欠な設計知識が惜しげもなく次から次へと出てくる。写真や図版も多く、解説は先ず事の経緯(歴史)から入るので、興味が持続するし実践的だ。この本から知識を吸収し、製作や架設、そして補修の現場に何度も足を運んでもらいたい、と思う。(建設図書、6500円) 2009.5.03

書籍紹介4:技術の創造と設計


私自身が、机の側に置いて、時々、眺めている技術の「教科書」です。技術の世界に生きている我々が「うまくいえなくて」もどかしさを感じているものが表現されています。現地・現人・現物。念仏のように唱えているこの言葉も本書からいただきました。(畑村洋太郎著、岩波書店、3600円) 2009.4.01

宮田秀明の「経営の設計学」

blog紹介「第3弾」として宮田秀明先生の経営の設計学を紹介する。どこでどう出会ったのか、書籍が先かHP上のコラムが先か、今となっては思い出せません。いずれにせよ、びんびん心に響く発信です。35歳以上の方々におすすめです。 2009.3.25

瀧口範子・シリコンバレー通信

blog紹介「第2弾」として瀧口範子さんのシリコンバレー通信を紹介する。初めて目にした記事(写真と気の利いた文章で構成)はMACPOWERという月刊誌の連載である。2005年5月の初回/FrankO,Gehry、7/Lawrence Halprin、8/Dean Kamen、9/Rem Koolhaas、13/Zaha Hadid、20/Oscar Niemeyer、21/Alexander Calder、24/Charles & Ray Eames、28/Louis Kahn、と続いて雑誌の廃刊とともに終了してしまった。そこだけ、切り取ってスクラップしていたので、今でもたまに見返すことが出来る。そんな彼女の記事に再会したのが今回紹介したblog(配信ニュース))である。ITなるものの将来を展望するに非常に参考になる読み物だと思います。 2009.3.25

梅田望夫・英語で読むITトレンド

初めてblogを読むようになったのが梅田望夫氏の「英語で読むITトレンド」だった。あの電車男も彼がハマったと書いていたので、伝染したぐらい。それをはじめに書いてしまうと誤解を招くが、彼こそが、日本にグーグルの存在意義を正しく伝えた最初の日本人だとちゃんと言っておきましょう。今では新書も売れているので、ご存知の方も多いと思うが、その(初期の)読者の多くが私と同じようにblogの読者だったと思う。あのころは工学部出身のスター誕生を見ているようだった。でも、彼はエンジニアとして活動をしている訳ではない。次のフェーズが待ち遠しい。 2009.3.25

韓国の建築雑誌を取り寄せてみた

橋の特集をやっているというので、韓国の建築雑誌「C3」というのを取り寄せてみた。目次から判っていたことではあるが、紹介されている事例は欧米の事例ばかりで、韓国の橋梁デザインの今は全く紹介されていなかったのが少々残念。ただ、情報の鮮度はとても新しい。現代は世界の情報がインターネットを通じて速報のように伝わり、後を追って雑誌が紹介してすそ野を広げて行くので、それに日々接していないと世界中で何が起きているか盲目になりかねない。今、世界中の構造技術者は構造に文化を取り戻そうと必死になっているのだが、日本の橋梁構造技術者でそれを肌身で感じている人の割合はいかほどであろうか? 未だに旧態依然とした設計イメージをベースに仕事をしている方々のなんと多いことか。ページをめくりながら、そんなことを考えてしまった。(考えるだけでなくちゃんと行動もしますが) 2009.2.28

書籍紹介3:BRUCKENBAU 〜博物館で学ぶ橋の文化と技術〜

学生さんが、橋の構造や文化を気軽に勉強するに最良の教科書だと思う廉価な本です。ミュンヘンにあるドイツ博物館「橋のコーナー」の学習ガイドブックを日本語訳したものです。世界中の橋を対象に文化、歴史、技術、などを豊富に紹介しており、橋とは何かを考える基礎力を提供してくれます。橋を志す人はこの本の内容は教養としても身につけておいて欲しいものばかりです。(ディルク・ビューラー(ドイツ博物館)編著、鹿島出版会、1800円) 2009.2.28

書籍紹介2:空間 構造 物語 ~ストラクチュラル・デザインのゆくえ~

学生さんが、橋や建築の構造を気軽に勉強するに最良の教科書だと思う、第2弾です。建築の絵本に比べて、一つ一つの図版は小さくなりますが大量の写真と図面イラストと共に、わかりやすく熱い解説が読みごたえがあります。「構造技術者は、自分の技術知識に加えて、直感あるいは創造的発想を動員しなければならない」とは推薦者のヨルク・シュライヒ氏の言葉ですが、その思想で全編が貫かれています。(斎藤公男著、彰国社、3600円) 2009.2.28

書籍紹介1:建築構造のしくみ 〜力の流れとかたち〜

学生さんが、橋や建築の構造を気軽に勉強するに最良の教科書だと思うので、ここに紹介する。大きなイラストを眺め、簡潔な解説を読むだけで構造の本質が見えてくる、様な本だ。出版社のコピーには「魅惑的な古今の建築物を「力の流れ」からとらえ、その「かたち」のもつ安全性と、美しさを支える構造と工法の合理性をわかりやすく解明する」とある。日本の伝統建築についても理解が深まります。(川口衛、他著、彰国社、2500円) 2009.2.28

Taschenの廉価な建築写真集

池袋ジュンク堂で、1冊1500円というTaschenの廉価かつコンパクトな建築写真集を買った。お気に入りの,そして構造に見所いっぱいの,建築家達6人のが揃っていたためだ。背表紙の白黒の肖像写真がまたgood。良い時代になったものだ。写真はみたことのあるものがほとんどだが、コストパーパフォーマンスは良く、若い人にはお勧めのシリーズだ。2009.1.19

 

BLOG archives

紹介書籍等の
Amazon shop へのリンク集です

書籍等の紹介ブログのアーカイブです

橋(bridge)関係ブログのアーカイブです

Mobolity関係ブログのアーカイブです

講演会関係ブログのアーカイブです